第6章 奪ってもいいか
「実はな、男バレ分の夕飯当番の従業員が来れなくなったそうなんだ」
「えっマジすか!女バレの分は!」
…リカコ、やっぱりそこに食いつくよね。
「女バレの分は午前中に作ってあるそうだ。男バレ分は食事時間が遅いからこれから仕込む予定だったそうなんだが、道が事故で封鎖されていて、車通勤の人だから間に合わないそうだ。午前勤務の従業員はとっくに帰ってしまっているし…」
そんなことってあるんだ。運動部員が練習後に食事が無いのは辛すぎる。
「そこでお前達に手伝いを頼めないか?男バレ部員は初日から本格的な練習メニューをこなしている最中だから、できれば練習に集中させてやりたい。お前達はこれから基礎練だけだろう。頼めないか?」
両手を合わせて頭を下げてくるコーチを見て、断れるほど鬼の部員はここにはいない。
「…わかりました。私達は早速調理場に向かいましょう。指示をもらえますか?」
高岡さんが先頭を切って歩き始めた。仕方ないよね。あとは基礎練だけだったし、今日ぐらいは男バレのために頑張ってあげよう。…一応彼氏も含まれてるわけだし。
非常事態を伝えにきてくれた従業員のおばちゃんの指示に従って、ひらすら野菜と肉を一口大に切っていく。切る係と、炒める係、汁物担当と大雑把に持ち場を分けて、できることからガシガシ進めていく。急がないと自分たちの食事時間が削られてしまうし。
「ごめんなさいねぇ。おばちゃん一人じゃこんな量を作りきれなくて…」
「いいんですよ!こんなに料理する経験なかなかないし!」
申し訳なさそうにしているおばちゃんに向かってガハハと笑いかけるリカコを見て、なんだかこっちまで笑ってしまった。リカコは試合でもああいう感じで皆を明るくしてくれるんだよな。
皆で協力したら結構あっという間に男バレ分の夕飯はできあがってホッとした。女バレの食事時間が少し過ぎていたので、私達は慌てて席について食事をとり始める。やっぱりチームメイト皆で食べるご飯は美味しいな。
「配膳もうちらがやる系?」
「…だよね~」
テーブルの端からチームメイトのそんな声が聞こえてくる。そうだよね。女バレより多い男バレ部員全員分の配膳をおばちゃん一人では絶対にこなせない。