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まだまだ青い白鳥たち

第4章 利害


「…俺、もう離してあげられないヨ」


キスの合間に天童くんが呟く。いつもより低くて甘い声。彼の大きくてゴツゴツした手が私の髪の中に入り、後頭部を撫でていく。息苦しさと快感で眩暈がする。ぼんやりした頭で考えたのは、もっと天童くんに甘やかされたいという薄汚い欲望だった。


もっと、もっと、牛島を忘れられるようなことをして。


「…さとり、もっと」
「……これ以上は駄目。止まんなくなっちゃうからネ」


絡めてた舌をソっと抜き、顔を離す。いつも飄々として笑っている天童くんの目が、欲望を耐えているような苦しいものに変わる。感じていた熱が急に離れて、なんとも寂しいような気持ちになる。


「…あー、部活戻りたくねー…」


ガシガシと頭を掻きながら天童くんは顔を下に向ける。私も急に恥ずかしくなってきて思わず下を向く。天童くんのハーフパンツから伸びる綺麗な足が目に留まり、やっぱりこの人はカッコイイ男の子なんだなと、今更ながらに実感する。


「…なつみちゃん部活行こ。今日はスパイクでも打って気ィ紛らわすわ」
「う、うん」


まだ火照る体を無視して私達は体育館へと向かう。今まで学校内では全くイチャついたりしなかったけど、天童くんが私の右手をとり、指を自然に絡めてくる。校舎から体育館までは結構な距離があり、その間に外で活動している陸上部や野球部の部員達に手を繋いでいるのをもちろん目撃される。


「恥ずかしいよ天童くん」なんて言える空気じゃなかった。有無を言わせぬ強さで指を絡ませられる。みんなに見せつけるように、知らしめるように。普段なら振り払うところだけど、今は彼の強気な態度に救われていた。


彼は全力で牛島を忘れさせようとしてくれているのだ。


ごめんね、ありがとう天童くん。あなたみたいな人を本当に好きになれたら良かったのにね。私はこれからも天童くんを通して牛島の影を見るのだろう。天童くんがそれを良しとしてくれる限り。


「…怖ぇ。鍛治くんの怒鳴り声ここまで聞こえてくるヨ」


いつの間にか男バレの体育館に着いていて、天童くんから手を解放される。


「じゃ、俺戻るね。若利くんの前では触ったりしないから安心して」


先輩に呼ばれた天童くんはそれだけ言い残すと体育館へと入っていった。離された私の右手は急速に冷たくなるような感触に侵されていくのだった。
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