第4章 利害
「そりゃなつみちゃんと二人きりで話したかったケド、なつみちゃんの普段の感じからすると、はぐらかされそうだったからサ。諸越ちゃんにも聞いといてもらいたくて」
…頭が痛いのはきっとアイスクリームだけのせいではないはず。天童くんのことだから、いつもの冗談だと思いたい。お願いだから「冗談でしたぁ!」って言って。
「俺さ、こないだの合同練習で思ったんだよネ」
「何を?」
「なつみちゃん途中で抜けたでショ。俺はさ、若利クン追い掛けるのかなーって思ったんだヨ」
少し俯いてアイスクリームをかき混ぜる天童くん。いつも飄々としている彼だけど今日はなんとなく空気が重い。
「でも若利クンは追い掛けなかった。もちろん高岡ちゃんがあんなカッコよく宣言したのもあるケド、ちょっとガッカリしたんだよネ。だったら俺がなつみちゃんを大事にしたいなーって思った」
いつもの話し方と全く同じなのに、天童くんの言葉に私の鼓動はどんどんうるさくなる。
「なつみちゃんが若利クンを好きなのはわかってる。でも、たまに俺と買い物行ったり、遊び行ったり、高校生ぽいことするのも楽しそうじゃない?俺はなつみちゃんと一緒だったら絶対楽しいって思ってるヨ」
ね?…と笑い掛けてくる天童くんの表情からは私のことを好きだとか、そういった感情は読み取れなかったけど。少し緊張しているのが分かってしまった。あの天童くんでも緊張することがあるんだな。そう思ったら急に肩の力が抜けてきた。
「…いいよ」
「なつみ!?」
「天童くんと付き合う。確かに楽しそうだし。天童くん結構モテるから、本当に私でいいのかなーって、そっちのが不安だけど」
「…全然モテないヨ。ありがとう、なつみちゃん。なつみちゃんがいいって言うまで手は出さないから安心してネ」
「…バカ天童!」
リカコはフンっと鼻息を荒くして、空になったアイスクリームのカップを天童くんに投げつけていた。全員アイスクリームは食べ終わったようで、解散することになった。私は二人と方向が違うから「じゃあね」と手を振って一人でバス停まで歩いていく。
「…天童あんた焦りすぎ」
「そりゃね。あの日若利クンが追い掛けないの見て、動き出しそうな奴いたし。若利クン以外の相手には負けたくない」