第3章 流れていく
「…例の女子マネージャーさ、中学ん時テニスのインターハイで準優勝だったらしいよ」
「全国で準優勝!?」
牛島を好きだと自覚してから翌日。リカコは私の前の席まで遊びにきていて、新しい情報を語りだした。昨日の部活、私はなんのメニューをやったのか覚えていないくらい昨日の出来事にショックを受けていた。まだ知り合って間もない女子と楽しそうに会話する牛島。ほんのちょっとしか見てないあのシーンが、私の気分をどん底に叩き落とす。
「そーそー。天童から聞いたんだ。ただの牛島ファンってわけじゃなさそうだね。テニス辞めてまでマネージャーだもんなぁ」
「…。」
…きっと牛島はそういう頑張り屋な女の子のこと好きなはずだ。なーんてどんどん暗い気持ちが胸いっぱいに広がっていく。牛島は私のことは…大切に思ってる…んだとは思う。でもそれは中等部からの大事な女友達枠って感じも否めない。
「…ねえ、なつみさ、牛島から他に乗り換えるのもアリじゃない?あの鈍感バレー馬鹿にはなつみは勿体ないよ」
「本当にねぇ、乗り換えられたらいいのにね」
「お、もう好きなのは否定しないんだ?」
リカコはとっくに私の気持ちに気付いていたようで、ニシシと笑いながら面白がっている。
「…私も先輩望み薄だからさー、乗り換え検討中なんだよね」
「え、誰に?」
リカコの思いがけない告白に、私は慌てて聞き返した。「ナイショ☆」と結構上機嫌なところを見ると、もう既に他の男の子が気になっているようだ。リカコは可愛いし未来の女バレエースだし、彼氏なんて本当にすぐできちゃいそうだ。でもリカコにトスを上げるのは私の特権だから、できればセッター以外の彼氏であって欲しい。
「ま、デキる女子マネージャーっぽいけど、気にしなくていいんじゃないの?牛島に限って変なことにはならないでしょ。もし泣かされたらソッコー言ってよ?奴の息の根止めるからさ」
…リカコは昔から牛島と折り合いが悪い。几帳面な牛島と大雑把なリカコ。合うはずもないんだけどね。そんなリカコでも私は大好きだから一つ一つの言葉に勇気づけられる。考えすぎても仕方ないか…と諦め、私は次の英単語テストのためにテキストを開いた。