第2章 気付き
「…爪と皮膚の間がパックリだね。まだ出血もある」
「すみません、部長」
瀬見くんと自主練した次の日、朝練前に私は部長に怪我の報告にきていた。
「あのね、男子との練習はいいと思うんだよ。緑川は中等部からやってるのは知ってるし。でも男子の成長舐めちゃダメだよ。あっという間にすごいパワーで成長してる。中等部と同じ感覚でいちゃダメ。」
「…部長の言うとおりです」
いつもは優しいんだけど、ここぞという時はピシっとしてる部長だ。男子との練習で怪我したっていうのは結構な問題だったみたいで、ピリピリした空気が一瞬で伝わってくる。
「それに、うちの学園はそこらの弱小バレー部じゃないからね。県内トップのチームだから。向こうが手加減して打ったつもりでも、結構な威力だったでしょ?…これが噂の牛島じゃなくてホント良かったよ…」
部長の言葉にハッとした。そういえば中等部の頃、私はよく牛島のサーブを受けていたんだった。あれは相当手加減してくれてたってことかな。それじゃ練習にならないと思うんだけど。
「緑川には悪いけど、瀬見くんだっけ?その子のことは鷲匠先生に報告させてもらう。いいね?」
「はい…」
自分の認識の甘さが招いた結果だ。現実を受け止めるしかない。それよりも瀬見くんに申し訳なさすぎる。ただプリントを渡しにきただけで、親切心でサーブを打ってくれただけなのに。きっと鷲匠先生にたっぷりと説教されることだろう…。
「緑川には期待してんだから早く怪我直しな。うちの大事なセッターだからね」
「部長…!」
いかん、部長が男前すぎて泣けてきた。部長が男子だったら速攻告っている。絶対こんな人を彼氏にしたい。
「じゃ、鷲匠先生んとこ行ってくる。みんなにストレッチやったら上がれって伝えといて」
「了解です!」
かっこよく走り去る部長を見送ってから、副部長に伝言を伝えにいく。今日は休み時間に瀬見くんに謝りに行こう。…死んでないといいんだけど。