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【YOI】ほろ苦く、そして甘い予感【男主&ユーリ】

第2章 僕と貴方の唇は


月が雲に隠れ、夜の帳が2人の姿をさり気なく包み込む。
そんな闇の魔術と重なり合った唇の感触に、つい正直な欲求が頭をもたげた礼之の手は、それまで支えていたユーリの背から移動し彼のスーツの裾を捲り上げ、更に内側へと入り込もうとしかけたが、直後くぐもったユーリの声に我に返ると、己の理性を総動員してそれを引っ込めた。
「ごめん、もうしないから。…キスしか」
僅かに唇を離しいつになく低い声で囁いた礼之は、ユーリと最早やり直しどころではないキスを交わす。
やがて、雲がゆっくりと流れ再び月の光が夜空を照らし始めた頃、今度こそ2人は身体を離した。
一瞬だけそれまで互いの口腔の粘膜を絡み合わせていた名残が、滑りを帯びた銀糸となって礼之とユーリの口元を伝ったが、それに気付いたユーリは怒りとも羞恥ともつかぬ顔をしながらせわしなく拭った。
そんなユーリを何処かうっとりと見据えたまま、礼之は指2本で己の唇をいとおしそうに触れる。
「思った通りだ。やっぱり、君とのキスは甘い」
「んなの…さっきまでノンアルコールのスパークリング飲んでたからじゃねーのかよ?」
「ううん、違う」
首を振った礼之は、それまで見せて来なかった少しだけ砕けた表情になると、両手をユーリの未だ朱の引かない頬に触れながら、ゆっくりと囁いた。
「今ので判った。僕は、君の事が好きだ。スケーターとしてだけでなく…こうしてキスをしたくなる程に」
「…キスだけじゃねーだろ。このエロ侍が!」
「え?ちょっと、そんな不名誉なあだ名やめてよ!」
頬に添えられた礼之の手を払いながら、照れ隠しも含めて大声で返したユーリだったが、途端に慌てだした礼之の様子に少しだけ安心すると、「二度と俺の許可なく、あんな真似すんじゃねえぞ」と凄んだ。
「それと…いい加減『プリセツキーさん』はやめろ。考えてみりゃ、俺とお前って1つしか違わねーじゃねぇかよ」
「僕としてもそうしたいけど、名前呼びはどうしても勝生さんがちらついて…」
「俺とカツ丼は、発音ちげーだろ」
「じゃあ、ロシア読みでユーリィ…それとも…そうだ。僕の生まれ故郷のスオミっぽく『ユリ(Jyri)』って呼んでも良い?」
英語でも日本語でもない礼之の口から出た発音に、ユーリは虚を突かれたような顔をした。
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