• テキストサイズ

【YOI】ほろ苦く、そして甘い予感【男主&ユーリ】

第1章 挫折と再会


GPS日本大会の男子シングルは、当初の予想通り日本のエース勝生勇利が優勝し、同時にファイナルへの進出を決めた。
昨シーズンにヴィクトル・ニキフォロフとの直接師弟対決を全て制し、その結果彼を『スケートの神様』から『人間』にした男の躍進は、ベテランの域に入った今も留まる所を知らぬ程である。
その一方で、シニア初参戦となった先のロシア大会で2位に入賞した伊原・アレクシス・礼之は、SPでのミスを挽回しきれず6位に終わり、惜しくもファイナル進出を逃していた。
「シニアの世界は甘くない」と頭では判っていた礼之だったが、もう少し何とかする事は出来なかったのかと、ひたすら己の未熟さや情けなさと自責の念に駆られ続けていた。

「…ホンマにお疲れさん。シニア1年目でここまで出来れば上等や。残念やったけど、落ち込むのは今日だけにしとき」
会場の角で項垂れている礼之の肩を、SP・FS共に彼の振り付けを担当した藤枝純が、優しく叩く。
「君はよく頑張りました。この先全日本を始め、まだまだ試合が控えています。純くんの言う通り反省するのは今日限りにして、明日になったら気持ちを切り替えなさい」
純とコーチの言葉に無言で頷くも、次第に溢れ出す感情を堪え切れなくなった礼之は、2人から離れると会場裏の通路に向かって小走りに去る。
そして、そんな礼之の後を、1つの影が少し離れた所から付けていた。

トイレの洗面所でひとしきり涙を零した礼之は、鏡の向こうで情けない顔をしている自分に向かって声を振り絞った。
「認めるんだ、礼之。所詮、これが今の君の実力だ」
数多の選手達を押し退けて上位に食い込むには、自分はまだまだ実力も経験も足りなかったのだと心の中で言い聞かせると、せわしない仕草で顔を洗う。
水が頭と心を冷やしてくれたようで、やがて少しだけさっぱりした気分になった礼之は、首にかけていたタオルで水滴を拭うとトイレを出る。
するとその時、
「よぅ」
「…プリセツキーさん!どうしてここに!?」
思わぬ人物からミネラルウォーターのボトルを突きつけられた礼之は、それまでの感傷も忘れて驚愕の声を上げた。
/ 22ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp