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第19章 雨音の中で[真波山岳]


「それから段々と目で追うようなっててさ。気付いたら本当に好きになってたんだ」
「私なんかで…いいの?」
「先輩だからいいんだよ。…返事はすぐじゃなくていいから」
再び歩きだそうとした真波の裾を引っ張り、待ってと呼び止めた。
「答えなら…今、出せる、から…」
深呼吸を1つし、真波に向き合った。
周囲には人が少なく、もうほとんど雨音とドキドキと早鐘を打つ私自身の心音くらいしか聞こえない。
「私、真波が走ってる時に時々真っ白な翼が見える時があったの。それがすごく綺麗で、その時の真波の表情が純粋にかっこいいな、って思って…。いつの間にか、私も貴方のこと目で追うようになってた」
「先輩…それじゃあ…」
「うん。私も貴方が好き。こんな私でよければお願いします!」
「あーよかったぁぁ…!」
「わ、わわっ!ちょ!」
「これからは堂々とこうして先輩を抱きしめてもいいんだよね?」
「え、えっと…、程々にね…?」
真波にぎゅうぎゅうと抱きしめられる。多少息苦しくもあるが、とても暖かい。
「ふふ、真波犬みたい」
「えー!ひどいなぁ」
「ごめんごめん!さ、帰ろっか」
「うん。涙も引っ込んだみたいでよかった」
そういえばいつの間にか涙が消えていた。真波からの予想だにしない告白を聞いてあまりの驚きに涙も引っ込んだんだろう。
「ありがとう真波」
「それはいいんだけど、その呼び方」
「呼び方?」
「晴れて恋人になれたわけだし、今後は山岳って呼んで欲しいなー」
「あー…そう、ね…。………さ、さん、がく」
「えー?きこえなーい」
「山岳…!」
「聞こえないなー」
「っ山が――!」
意地になって少し大きめの声で呼んでやろうとしたら唇に暖かくて柔らかい何かが触れた。
一瞬、あらゆる音が遠のいた気がした。
「ぃ…いま、いま…!!」
「うん、合格」
爽やかな笑顔を浮かべているところすらかっこよく見えてしまうのだから恋は盲目とはよく言ったものだ。
「ところでなんで泣いてたの?」
「秘密!」
そして雨音に包まれた空間を私たちは他愛ない話をしながら歩いた。
たまにはこんな雨の日も、悪くないかもしれない。
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