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第17章 遠くに見える背中(前編)[金城真護]


「お疲れのところわざわざ送っていただいてありがとうございました。金城先輩」
「構わないさ。俺の家と案外近いみたいだしな」
「そ、そうなんですか!?」
「嗚呼。天霧、紙とペンは持っているか?」
「え?えぇ、持ってますよ」
そういって差し出すと、金城先輩はスラスラと何かを書いて私に返してくれた。
「こ、これって…!」
「俺の連絡先だ。また篠宮に追われるようなことがあれば遠慮せず連絡してくれ」
まさかまともに会話して初日に連絡先を教えていただけるとは思ってもみなかった。想い人から連絡先を教えて貰えるだなんて夢のようだ。
「本当はもっと前から君からの視線に気づいていたんだ。だが勘違いだったらと思うとなかなか切り出せなくてな」
「すみません…。遠くからずっと見られてるなんて不快ですよね…」
今更ながらに思った。見知らぬ人からずっと視線を送られ続ける側の気持ちを考えていなかったな、と。
(そうだよ…見知らぬ人からずっと見られてるなんて気持ち悪いじゃない。ストーカーみたいだし…、きっと眺めているだけって縋ってるから気持ちにも諦めがつかないんだ…)
もう眺めるのもやめよう、そう思いなおしたのに。
「どうせなら、これからは部室の近くまで来るといい。君一人でいるとまた篠宮に絡まれかねないだろうしな」
金城先輩から発せられたのは思いもよらぬお誘い。近くに行って、いいのだろうか?
「いいんですか…?」
「嗚呼、早速明日から来るといい。そうしてくれれば帰りにこうしてまた送ってやれる」
「あ…ありがとうございます!!」
「それじゃあまた明日」
「ぁ…!あの!」
最後にひとつ言いたくて去ろうとする背中に声をかけた。ワガママかもしれないが、今は勢いに任せて言える気がしたんだ。
「わ、私の名前!雪音です!」
「…また明日な、雪音」
「はい!また明日!」
フッと微かに微笑んでくれた金城先輩はそのまま自転車を走らせた。
遠くなっていく背中が見えなくなるまで、私はじんわりと暖かくなる胸の温度を感じながら小さく手を振っていた。
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