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第17章 遠くに見える背中(前編)[金城真護]


4月、季節は春。
まだ肌寒さを感じるが、窓から差す陽射しは冷えた空気を暖かくしてくれる。
私が今いるのは図書室。読書離れの進んだ今では図書室を利用する人は少なく、とても静かで居心地がいい。
(あ、金城先輩だ)
窓の方へ視線を移せば、自転車競技部の部員達の姿が見える。これから走りに行く様だ。
私は数人いる彼らの中の1人の後姿を見つめる。
3年の金城真護先輩。私が今密かに想いを寄せる人物だ。
彼に惹かれたのは1年の頃、図書委員になって特にやることも無くそれとなしに窓から外を眺めていた時の事だった。ロードバイクに乗り、颯爽と走り抜けていく金城先輩の姿に私の目は自然と引き寄せられた。
ああ、あの人カッコイイな…なんて遠目ながらにそう思った。
学校内で時々見かけることはあった。その時は大人びている印象だったけれど、自転車を走らせる彼はとても生き生きとしていて。そんな姿にいつの間にか恋していた。
とは言ってもろくに関わりもなく、ましてや話したことすらない私は告白なんてだいそれたことをする勇気なんてなくて1年が過ぎ、そして2年を迎えているわけだ。それにほぼ面識のない私から突然告白なんてされても彼を困らせるだけなのは分かっている。
予定さえ合えば総北が出る大会にはこっそりと行ってはいたものの、当然総北の待機所に行くことは無かったし、そこへ行く勇気もなかった臆病者。
私はただ遠くから彼を眺められていたらいい。いつか彼に恋人が出来て、この想いにしっかり蓋をできるまでは、せめてこのままあなたの背中を眺めさせてください。
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