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第16章 気付きしも届かぬは焦がれし想ひ[我妻善逸]


「あら、善逸くん」
「雪音さんこんにちわ。1人ですか?」
「こんにちわ。さっきまで玄弥がいたんだけどねぇ…任務が入っちゃって」
「そうなんですか。あの、隣座っても?」
「いいわよ〜。どうぞどうぞ」
とある日の昼下がり、甘味処の前を通り過ぎると藤海(ふじみ)雪音さんが1人で座っていた。
彼女は岩柱 悲鳴嶼行冥さんの継子で、先程彼女が言っていた玄弥――不死川玄弥の姉弟子でもある。
そして俺が今気になっている人の一人でもある。
「善逸くんは最近どう?ちゃんと鍛錬してる?」
「してますよ。雪音さんはどうですか?」
「んー、私も相変わらずかなぁ。玄弥に至っては最近思春期にでも入ったのか目すら合わせてくれなくなったし…。はぁ…」
「思春期…」
…お分かり頂けただろうか。
そう、彼女は今弟弟子である玄弥に想いを寄せているのだ。
元々、彼女と知り合ったのは玄弥と仲がいい炭治郎から恋で悩んでる人がいると紹介されたのがきっかけだった。
異性が相談相手となった場合、相談を重ねているうちに恋が芽生えるなんてこともよくあるだろう。俺はまさにそれだった。
最初は綺麗な人だなーと思っていただけだった。いざ相談を受けそうして同じ時間を過ごすようになって。いつの間にか俺は気がつけば彼女の姿を探し、その姿を見つければ自然と目で追っていた。
そして聞こえてくる彼女の"音"の変化にも、気づくようになった。
嗚呼、俺が入り込める隙間なんてないんだなと悟ったんだ。
「そのうち玄弥だって慣れてきますよ」
「そういうもんかなぁ…」
「そういうもんです」
「そうだといいんだけど…」
(あ…音が変わった)
本当に思い悩んでいた音よりも、僅かながらに希望を抱いたのか音がほんの少し穏やかになった。
(俺だったらこんなに悩ませたりしないのにな。ちゃんと向き合って話し合うのに…)
こんな思いを抱いていても彼女の想いの矢印は玄弥ただ1人だけに向いていて。きっとその矢印が俺に向くことはないのだろう。
最近は玄弥にも音の変化が出てきている。音から察するに、彼自身も雪音さんへと気持ちが向き始めてる。
ここまで来ればもう、2人が結ばれるのも時間の問題と言えよう。
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