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第12章 穏やかな時間[煉獄杏寿郎]


当時の私は子供で、彼の注意を聞き入れずにいた。そして彼の言った通り大怪我をして「嗚呼、あの人の言った通りだったな」なんて思いながら生死の境をさまよったこともあった。
私が寝込んでいた5日の間ずっと任務の合間を縫っては杏寿郎さんが手を握り続けていてくれたのだとか。それから目が覚めて、彼に抱きしめられながら告白された。自然と涙が溢れてきたのを覚えてる。
正直なところ、本当はすごく迷ったのだ。私なんかが炎柱の女でいいものなのか。――幸せに、なってもいいのだろうかと。
「俺もお前と結婚出来て良かったと思っている」
「こんな風に、愛しい人と寄り添って…暖かな陽射しと優しい風に吹かれながら…こんなにも穏やかな時間を過ごせるようになるなんて思わなかった」
「そうだな。愛しい者と過ごす時間は何ものにも変えられぬ、かけがえのない時間だ」
全てのものに終わりがあるように、どんなに幸福な時間にもいつか必ず終わりはくる。
こんな時間がいつまで続いてくれるかは分からない。私自身最前線で戦っていたのだ。もしかしたら次の任務に行った先で杏寿郎さんが帰らぬ人となる可能性だって十二分にある。
でも、今だけは願わせて欲しい。
叶うならば、どうかこの幸せな刻がいつまでも続きますように。
「愛しているぞ雪音」
「私も愛しているわ。杏寿郎さん」
そしてふたつの影はゆっくりとひとつに重なった。
――怖いくらいの幸福を噛み締めよう。いつか来る、最期のその時まで…。
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