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第6章 恋人ごっこ[常磐]


ガラリ、と扉が開く音がし、ぼーっとしている間に医療班は退室したのだと思った。そして代わりに入ってきたのは常磐さん。
「常磐さん、言われた期限の1ヶ月まではあと2日か3日くらいあるかもしれませんが――別れましょう」
「…は?」
想定外だった。まさかここで別れを切り出されるなど。
「…私のわがままで散々振り回してしまってすみませんでした。それから、ただのいち部下である私なんかの付き添いまでしてくださってありがとうございました」
「待て待て、何を言われたんだ」
そう問うと、雪音は俯いたまま布団を強く握りしめ何かに耐えるように言葉を紡いだ。
「私、この前斬られた時に子宮が傷付いたみたいで…もう子供産むの無理かもしれないみたいなんです」
「本当なのかそれ」
「…はい。先程医療班の方から言われました。子供を作る機能自体は影響ないけど、子宮で子供を育てる過程で傷ついたところから破裂する可能性あるって」
そうなった場合、母子ともに無事でいられるとも限らない。むしろ双方が死ぬ可能性の方が高いだろう。
「…一つ確認なんだが、お前自身の俺への気持ちは変わりないということでいいんだな?」
「そ、それは勿論!…でも、」
こんな身体では…そう続けようとしたが、暖かな温もりに包まれてその先は言えなかった。
「常磐さん…?」
なぜ私はこの人に抱きしめられているのだろうか。情報処理が追いつかない。
「いいんだ…お前の想いが変わらず俺にあるのなら…」
「それ…どういう…」
「俺との恋人という関係だが、これからも続けてくれないか。今度は仮初なんかじゃない。本当の"恋人"として」
「でもっ…!」
「先刻言っていた子供のことだが、どちらにしろ聖戦に関わっている以上いつ命を落とすかもわからないんだ。互いに生き残れた時考えればいい。それに」
――お前を抱く分には何ら問題はないんだろう?

「へ?あ、ああああの!?え!?」
そんなことを耳元で言われた私は既にショート寸前だった。
「退院するまでに覚悟しておけよ」


そして無事に退院した私は1週間後、常磐さんの自室で蕩けるような夜を過ごした。
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