第4章 白昼夢| カカシ
「黙ってどうしたのですか。」
名を呼ぶと、いつもと同じ彼女だった。ふわふわと掴めない物言いといい、よくとおる声も。
「カカシ先輩。」
俺が返事をしないためか、彼女は俺の名前を呼んだ。
「何か俺が質問して答える気があるのか?」
「もちろんありますよ」
ゆっくりと、彼女はいつものように曖昧に笑った。そして目を閉じ大きく呼吸をする。俺は彼女から紡ぎ出されるであろう言葉を静かに待った。
「カカシ先輩、おかしいとは思いませんか。ここ一帯の地質と異なる石が一つだけあるなんて、異質でしょう。」
彼女はくるり、とこちらに向き直る。その眼は爛々と輝いていて、普段とは異なる大げさな動きは、芝居じみて見えた。
「これは英雄にはなれない者達の慰霊碑なんです。」
背丈の低い楓の根元に置かれた石にそっと手を触れた。慈しむような、ひどく優しいその仕草に、彼女が心を許した者が眠っているのだろう、と俺は想像した。そして俺は今、不愉快な顔をしているに違いない。
「帰るぞ。」
唐突に発した言葉は、自分と彼女を包む空気を壊していった。彼女の眼からは光が失せる。良いのだ、これで。
「散ってしまいますね。」
こぼれ落ちた彼女の声は淀み沈んでいく。俺はそれを掬い取ることはせず、戻るぞとだけ言うと、大きく地を蹴りその場所から離れた。赤い景色が遠くなる。所詮夢は夢。やはりなんてことはなかったのだ。気にしすぎただけだ。それでは、なんなのだろう、この焦りは。
彼女が、少し遅れて自分について来る気配がした。今まで、自分の指示に彼女が従わないことはあっただろうか。いや、一度たりともなかった。彼女は逆らわない。だから何も心配する必要はないはずなのに、とにかくここから抜け出してしまいたかった。