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涙はとうに枯れてしまった【NARUTO】

第4章 白昼夢| カカシ


冷たい雨が降っていた。大きな雨粒がぼつぼつとうるさく外套を叩いた。肩の辺りではねかえったしぶきが毛先を伝い首筋を濡らしていった。体温が奪われていくのが分かったが、そんなことはどうでもいい。今はこの景色を、目に焼き付けなければ。
あれだけ鮮やかだった赤はすっかり灰色を帯び、生気を失っていた。
わずかに空気が揺らいだ。誰かが、近付いてくる。それを合図に私の周りで憂鬱そうに停滞していた時間は、ゆっくりと動きはじめた。
鋭さを失った楓の葉の、赤い剣先から滴がぽたり、とたれた。同時に私の目の前では同じ光景が繰り返される。よみがえる記憶に思考を委ねれば、周りとは隔絶された空間が出来上がった。自分はあの時、確かに存在したのだ。今はもうこんなことしか考えられなかった。その証だけを頼りに、私はまた永遠をさまよう。もう少し、あと少しだけ長く。
欠けていく。最初にいたものはぼろぼろと落ちていった。そして何事もなかったかのように、足りない分だけ付け加えられる。私はいつでも同じ道を歩いていたのに、今はもう、誰もいなくなっていた。


俺は目が覚めてから、夢の記憶を頼りに里内を走り回った。誘われるように森に分け行っていけば、彼女は期待通りそこに立ちすくんでいた。
「何時までそうしているつもりだ。」
 名前は呼ばなかった。それは、自分への、せめてもの抵抗だった。けれど彼女は夢で見た様に、ゆっくりと振り返る。フードから覗く髪がしっとりと濡れている様子も、控え目にこちらを見る瞳も、同じだった。
 彼女、山上ナチは何か言おうと口を開きかけて止めた。震える、少し色の失せた唇は、長時間外にいたことを示していた。
 体に当たる雨が、徐々に強くなるのが分かった。ばらばらとたてる音がやけに耳についた。
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