第4章 白昼夢| カカシ
「理由、聞かないんですね。」
「あのねえ、俺は湿っぽい話は好きじゃないの。」
あの嫌な空間から、遠ざかると俺はようやく普通に声が出せるようになった。
「まあ、聞いて欲しいなら聞いてあげないこともないけど?」
「そうですか、」
返事はそれだけだった。機嫌を損ねた訳でもないらしいが、彼女からは話しかけるな、という雰囲気をひしひしと感じた。俺は日常に引き戻すためにおしゃべりを続けていたかったが、何を話しても彼女は終始無言だった。あまりにも、居心地が悪い。俺は、里の端のようやく人気のある近くまで来て、不意に立ち止まった。それから一拍おいて、後ろでがさりと音がした。彼女も数メートル後ろで、俺の様子を窺うように立っていた。
「人に一々理由を聞くなんて、無粋でしょ」
頭を掻きながら、いかにもめんどくさいというように、ゆっくり振り向く。彼女の存在が遠い。一瞬だけ、これ以上希薄な関係になれば、二度と彼女に会えなくなる、という考えがよぎった。稚拙な妄想だ。
「……。」
彼女は返事をしない。まっすぐ俺を見てはいるが、その表情は俺に向けられたことのないものだった。きっと彼女は俺を通して別の誰かを見ているのだろう。
「まっ、俺から言えるのは。」
ぽん、と彼女の頭に手を置いた。子供扱いするなと怒りださない所は人間ができているのだろう。本当は何を考えているのだろう。黒い瞳は推し量ることが出来なかった。
「過去に生きても、しょうがないってことだけだよ。」
少しだけ、彼女の睫毛が伏せられた気がした。
「まあ、それは俺も同じなんだけどね。」