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涙はとうに枯れてしまった【NARUTO】

第4章 白昼夢| カカシ


一人雨の中を走る。風はなかった。もやのかかった様な森をひたすら前へ、前へ。急がなければ、という思いが彼を駆り立てた。男は焦っていた。苔や木肌は雨で湿り滑りやすくなっていたが、スピードは落とさない。大きく跳んだ拍子に、枝が腕に当たり、葉にたっぷりと湛えていた滴をまき散らした。彼の服に大きな染みをいくつもつくったが、構わない。訳もなくただ焦っていた。紅い林を抜けるとそこには……人がいた。
顔は見えない。声も発していないし、身体的特徴もコートに隠れてしまっていたが、不思議と誰だか分かっていた。正確には、森を抜ける間から、そこに人がいることも、それが誰なのかも知っていた。
男は安堵した。あれほど自分を追い立てた焦燥は、どこへ行ったのだろうか。感情というのは不思議なもので彼女の姿を見ただけで跡形もなく消えていた。ゆっくりと、落葉に覆われた地面を踏みしめながら名を呼んだ。そこでふと気づいた。自分が発した声のはずが、全く聞こえなかった。はじめから音は無かった。雨の音も、衣ずれの音も、風を切る音も、全てが失われていた。彼女はこちらを向いていない。俺の声はおろか、枯れ葉を踏みつける音も聞こえていないはずだった。けれど彼女は呼びかけに応じ、こちらを振り返った。
何かを呟く様に口元が動く。聞こえない。俺は一歩近付いた。彼女はまた何か呟く。やはり聞こえず、名前を呼びながら一歩近づく。
ゆっくり、ゆっくりと。
……ナチ
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