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涙はとうに枯れてしまった【NARUTO】

第6章 休息| カカシ


ぱらり、と紙をめくる音が部屋に響く。耳をすますと時計の秒針の音、カーテンが風で動く音にまじり、規則的な呼吸の音がした。
部屋を包み込む静けさを壊さないよう、慎重に息を吸い込むとかすかに消毒液の香りがする。
うっすらと目を開けると、少し頑張れば手の届きそうなところに彼女はいた。椅子に腰掛け本に目を落としている。
「読むの、遅いんだな。」
ばれました?と彼女は言うと、本を閉じ大きく伸びをする。目には涙が滲んでいた。思ったより面白くなくて。あくびを噛み殺しながらもごもごと話すと俺の方に向き直る。
「何か食べますか? ぐっすり眠っていたから、もうお昼は下げられてしまいましたよ。」
そんなに寝ていたのか、と思い時計を見ると14時37分だった。何時間寝ていたのだろうと考えてみたが、思い出せずやめた。
「確か、見舞いの品が冷蔵庫に入っているはずだが。」
「待ってください」
起き上がろうとするを制するように、彼女は俺に触れた。
「まだベッドから、動いてはいけないと言われているのでしょう?私が見ますよ。」
俺をベッドに戻すと、彼女の手は離れていく。布越しに伝わる柔らかな手の感触が名残惜しい。
「桃の缶詰か、りんごあたりはどうですか?」
首は動かさず目だけて、彼女の姿を捉える。背中を丸め小さな冷蔵庫を覗き込み顔はよく見えなかった。
「すまない。ほんとは自分でできたらいいんだが。」
「動けない間は仕方ないです。もうじき良くなって、退院できますよ。」
りんごを手に取り彼女はこれでいいですか?と言い微笑む。
「ああ」
幸せだな。今の彼女は兄妹、友人、恋人といった関係が似合っている。

雨の中、あの時出会った彼女は何かを俺に伝えようとしたけれど、目があった瞬間、それが最後の言葉になるような予感がした。あの目を俺は何度も見たことがある。主に任務中に。あれは、死に取り憑かれたものが……もうどうでもいいさ。
全身を支配する倦怠感に任せて目を閉じた。少し考え事をしただけでじっとりと汗をかいていた。体に掛かる布団さえ重いと感じる。
理由はなんであれ、今俺のそばにいるあいだは彼女はあの場所に行くことはないのだ。それだけで、十分じゃないか。
俺の名をよぶ穏やかな声がきこえる。彼女の笑顔を思い出せば、体の痛みも忘れられた。こうやってずっと、一緒にいられたなら。
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