第19章 望み叶えタマエ
Side villain
薄暗い部屋の中、男はまたも不機嫌であった。
“餓鬼”と“礼儀知らず”
彼の嫌いな2つが同時に現れたからだ。
一方は可愛らしい女子高生。もう一方はツギハギの青年。
彼らはヒーロー殺しステインのフォロワーであった。ステインステインと世が騒いでいるのを見て機嫌を悪くしている彼にとって、その登場はまさに火に油だった。
「良くないな…気分が良くない…!」
「いや、待て待て。」
手をあげようとした彼を止めたのは、彼らを連れてきた大物ブローカーだった。そして、決定的なひと言を放つ。
「“安藤ひよこ”」
「…は?」
「探してんだろ?」
自分の探している“モノ”の名前が出て、彼はピタリと動きを止める。
「こいつらは彼女について情報持ってんだよ。」
「どういう事だ。」
彼は椅子に座り直し、嫌々ながらもそちらに目線を送る。
すると、少女はウキウキと、青年は淡々と、彼女の名前を出した。
「ひよこちゃん!私、話してみたいんです!!ステ様と話してたから!!」
「安藤ひよこはこの間の騒ぎでヒーロー殺しと会話している。その思想を理解した上で揺るがした。そんな奴に興味を持つのは当然だろ。」
そして青年が出した写真には、血だらけで倒れる少女の姿が写っていた。
「こいつがソレか?……死んでんじゃないのか?」
「いえ。あの事件で死者は出ていません。」
血だらけの少女をじっとりと眺めるが、顔のつくりはよく見えない。
「おい写真はこれだけか?」
「いや、こっちにもっといいのがある。」
「じゃあ早く出せよ。」
そしてブローカーが出した写真には、両手を体の前で組み不安そうな表情で立っている、右眼に眼帯をつけた少女が写っていた。
「雄英の生徒かよ。この前は居なかっただろ。普通科か?」
「いや、ヒーロー科。A組だね。」
「はぁ?」
「まぁ、お前らを惑わすためだろうな。小賢しいねぇ。ヒーロー殺しの事件の被害者から遡ってね。それは雄英体育祭のテレビ中継の画面に一瞬写った彼女だよ。」
見えないところで彼の顔がニヤリと歪む。
霧が晴れ、その先にあるものがハッキリと姿を表しだす。
一方は主の思想を揺るがした重要人物として、そしてもう一方はただその個性の為に、彼女は彼らに必要とされていた。