第18章 あなたは特別な人
「よ…よし、誰もいないな……。」
「…おはようクソタマゴちゃん?」
「ひっ……!!?」
次の日、びくびくしながら家を出たら、案の定勝己くんに後ろから襲撃された。笑顔の彼ほど怖いものは無い。
「いやぁァァアアアアアア!!」
閑静な住宅街に私の悲痛な叫びが響いた。ガバッと顔を引っ掴まれて油性ペンで顔になにかを書かれた。満足いくまで落書きをすると、彼は颯爽と登校していった。
急いで鏡を見ると、ヒゲを書かれてたり、アホやらバカやら書かれてたり……私の書いたはなまるの5倍くらいたくさん落書きされていた。半沢直〇もびっくりの仕返しっぷり。
早急にカバンからマスクを出し、顔を隠す。
それにしても朝仕返しをするなんて。夜だったら消せたのに。なんてみみっちいんだ。せこい!陰湿!みみっちい!!
マスクをぐうっと顔に押さえつけながらコソコソと登校する。今日は絶対顔を見られてはダメだ…!
教室の扉を小さく開けて、こそこそと教室に入る。泥棒にでもなった気分。あんまり目立ちたくないのだ。
しかし、席につくと天哉くんが小学生のお手本みたいな大きな声で挨拶をする。いや、嬉しいんだけどね……。
「おはよう安藤くん!おや!風邪か?」
「お゛!?おはよう!…あ……えっと、まぁ、そんなところ…。」
マスクをぎゅっと顔に押さえつけ、カチンコチンの返答をする。マスクが蒸気で蒸れて気持ち悪い。
「雄英生たるもの、体調管理は徹底すべきだぞ!」
「おはようひよこちゃん。昨日の疲れかしら?」
「おはようつゆちゃん。えっと、でも、平気だよ!大丈夫!」
「マスク苦しそうだけど、」
「取ってはならぬの……」
「なんだか並々ならぬ決意を感じるぞ…」
心配してくれる2人に申し訳なく、しかし本当のことは恥ずかしくて言えなくて、ただ遠くの席で足を投げ出す彼に怨みのこもった視線を送り続けた。