第15章 〈番外編〉All good things
少女は、そこまで書くとペンを置いて日記帳を閉じた。
真っ赤になった顔を、ペンを置いたその手で抑える。
想いが、溢れてしまいそうだった。
少女はしばらく目を伏せ、頬の紅潮を落ち着けた。そしてしばらくしてから目を開き、引き出しを開けて日記帳を片付ける。
その引き出しの中には数え切れない程の日記帳が詰まっていた。
彼女は此処に引っ越してきた当初から、毎日欠かさず日記を書いている。
ふと思い立ち、一番古い一冊を手に取り、パラパラとページをめくる。
【12がつ△にち いずくくんちにあそびにいきました。いずくくんのおかあさんはすごくやさしかったです。わたしのおかあさんもやさしいんだよっていっておきました。】
ペラリ
【12がつ✕にち そとはさむかったです。ゆきがふってます。きょうもかつきくんがこわかったです。いやだな。おかあさんは、かつきくんはひよこがかわいいからだといっていたけれど、ちがうとおもいます。】
ペラリ
【9がつ〇にち なんだかこわいおとこのこにあいました。あいたくなかったです。こわかったです。あのこがかつきくんらしいです。おかあさんがなかよくするのよといってたけど、できるかわかりません。】
そして、一番古い日付まで遡る。
【8がつ◇にち おかあさんがかくといいよといっていたので、かいています。おかあさんはいま、おはなをかびんにいれています。おかあさんは、にっきをかけばきっといつかたのしいことでいっぱいになるよといっていました。それはちがうとおもいます。】
幼い字で書かれた日記には、毎日必ず母親のことが書いてあった。いつからそうでなくなってしまったのか。
彼女はその、“おかあさん”の文字を避けて読んだ。
【それはちがうとおもいます。】
そう書かれた文字をすっと指でなぞり、目を閉じる。
そして彼女はペンを手に取り、カリカリっと書き込みパタンと日記帳を閉じた。
そう思えたことに、感謝しながら。
【違わないよ。最近楽しいよ。友達も、たくさん出来たんだよ。】