第9章 英雄の後ろ姿
職場体験当日。
初めて見るコスチュームのケースを抱き締め、ドキドキしながら先生の話をきいた。心は不安でいっぱいで、内容は全然頭に入ってこない。
「そーいや、安藤はコスチューム初めてじゃん!」
「ひょわっ!?あ、うん…!みんなで一緒に考えたの。きっと素敵なのになった……と思うよ!」
「へー!そうなんだ。俺も見たかったなぁ」
「ま、また今度…」
先生の話を聞いていたら電気くんに話しかけて貰った。
ちょっとびっくりした。
電気くんは、最近仲良くなった(と私は思っている)すごく明るい人だ。俗に言うチャラい、ってやつだ。
この前、「飯行かねぇ?」って誘われて、カルチャーショックを受けた。
街の人ってこんなに友達認識のハードルが低いのかな?と。高校生って、そんな感じなのか!と、お友達と外食とか、行ったことないし。
結局あの時は、家が暇なときはいつでもいいよっ!と喜んでお受けしたら逆に引かれた。不可解で理不尽である。ちょっとむっとした。
でも、いつでも明るく話しかけてくれる優しい良い人だ。
「お、お互いがんばろうね…!」
「おぅ!安藤あれだろ?ヒーロー事務所丸田?東京かぁいーなぁ!」
「えへへ、お土産買ってくるよ、えっと…東京ひよことか」
「ひよこがひよことか!ギャグじゃん!」
「あ、そっか…!」
「え、気づいてなかったんかよ。」
「おいそこ!静かに!」
「ひゃい!」
「はい!?」
話が盛り上がって喜んでいたら、先生にめちゃくちゃ睨まれた。めっちゃ怖かった。
ぴっと背筋を伸ばして前を向く。
腕の中のコスチュームケースをもう一度強く抱きしめた。
「くれぐれも体験先のヒーローに失礼の無いように。じゃあ行け!」
「「「はい!」」