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スキナヒト

第4章 ほんとうの気持ち


彼は大人だからわかっていたんだ。

私がどうするのか、自分を気にして踏み出せないんじゃないか、と。
ごめんなさい。ありがとう。


「ありがとうございます」

そう言って私はタツミの家まで駆け出した。

「とても、とても愛していたよ」
彼がそう呟いたことは知らずに。


外は雨だった。
だけど、早くタツミに伝えたくて。
傘もささずに探し回った。

だけど、家に行っても。
「にーちゃん?いない」

茶屋にいっても。
「タツミ?みてへんなぁ。」

湯屋もいなかった。
どこにも、いない。

あと、どこ?
あそこだ、恋の花を探しにいった時に入ったあの、穴だ。

あそこだけ。まだみてない。

あの穴に行くと。
見慣れた長い黒髪が紫色の着流しを湿らせて俯いていた。

「タ、ツミ…!」
「ん、ヤイチくんなよって言っただ…ってなんで…」

また切ない顔をして俯くタツミ。
そんな顔をさせているのは私だよね。

タツミ。ごめん。好きです。

「タツミ…」
「なんで来てるの…?早く行きなよ」
「私がいると迷惑かな?」


「うん、迷惑だよ」

「好きなの、タツミが。それでも、それでも迷惑?」
「迷惑だよ…そばに居られると話したくなくなっちゃう」

「ウェインさんとするキスよりタツミとしたキスの方がとろけそうで暖かくて切なかった。これって、恋だよね。私…ずっと気づかないふりしてた。自分の中の憧れをウェインさんに重ねてずっと好きだと思ってた。でも、わたしずっと、タツミのことが好きだったの。」

「い、みわかんない。」

そう言ってきつく抱きしめるタツミ。
小さい頃はわたしの方が大きかったのに。

今ではわたしより大きくてたくましい背中。
低い声。大きな手。そして、かっこよくなったタツミ。

「ずっと前から好きだったよ」

「知ってるよ、バカ、わたしも、すき」


そして、あの頃と同じように。

やんだ雨の後に、虹を見た。

「あの頃と、同じ。タツミ。かっこよくなったね」

「お前だって可愛くなった。この里の誰よりも、綺麗だよ」


このあと、湯屋の男の常連たちにタツミが毎日嫉妬し続けるのは言うまでもない。


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