第7章 別離れ
―慶応四年四月二十五日
新選組局長 近藤勇、斬首。
療養中の会津で、近藤さんの墓をたてた。
「…なぁ近藤さん…俺は、死ぬ場を間違えたのか…」
彼の死による欠けた心と、託された熱い思いに。
俺は初めて、自分の歩みを止めた。
掲げた『誠』を見失い、彼の墓前で、何度道を見つけ出そうとしても、足は前へと進まなかった。
本当は、わかっていた。
もう後戻りはできないのだ。
何があっても、前へ進まなければならない。
先が見えない暗闇でも。
彼が共にいない、道でも。
俺は、進まなければならないのだ。
けれど、俺にはなかなか近藤さんの死を受け入れることができなかった。
そんな日々を過ごしていた時、多摩から手紙が届いた。
送り主は、姉のノブだった。
かさり、と手紙を開くとそこには自分への気遣いと、近藤さんが立派に逝ったのだと、板橋でのことが書かれていた。
懐かしい姉の字と、綴られた近藤さんの最期に、思わず目頭が熱くなる。
切腹を許されなくとも、彼は堂々と逝ったのだと。
あの姿は、誰よりも武士らしかったと。
そう、書かれていた。
「……近藤さん…!」
彼は武士として生き、武士として逝った…そう思っても、いいのだろうか。
でもそれは、自分が生きのびたことに対しての言い訳のようで。
彼を失ってゆがんだ心にはどうしても、素直に受け入れられなかった。
そして、最後にためらうようにそっと書き添えられた文に、俺は己の目を疑った。
「……なん、だって…!?」
ぐしゃり、と震えた手に握られた、手紙の最後に書いてあったのは、
――ゆきの、死の報せだった…。
…桜花恋語 七話完。