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【薄桜鬼】桜花恋語

第4章 夢への旅立ち



『私はもう、この桜の下では泣かない。
だって、哀しいだけの恋だなんて、思わないから。

貴方が目指す夢は、私の夢でもあるし。
何より、私には貴方がくれた、優しい約束がある。

だから私も、私の道を行くことができる。




―ねぇ、歳さん。貴方に恋をして、本当に良かった…』




結婚前夜。
いつもの桜の木の下で、ゆきはそう言って、鮮やかに笑んだ。







―貴方に恋をして良かった、なんて。ひどい殺し文句だ。




これ以上の恋なんて、できやしないと、そう思ってしまう。


甘くて、切なくて…何よりも愛しいこの想いは、俺を一生離してはくれないだろう。



だが、それでいい。

俺はこの想いを抱えて、前へ進むのだ。


彼女との約束を、果たすために。

己の夢を、叶えるために。






―だから、今なら言える。









「……幸せに、なれよ…」







遠目に、旦那と並んで微笑む花嫁にそっと呟いて。

俺は、その場を後にした。


すると、少し離れたところに勝ちゃんが心配そうな顔をして立っていて。


「…トシ…」

「…勝ちゃん、来てたのか。大丈夫だ、心配いらねぇ」

「…お前はいつもそう言って、一人で何でも背負ってしまうから…やっぱり俺は、心配だ…」


そう肩を落とす親友に、思わず苦笑がこぼれる。




本当に、優しい男だと思う。
いつだって、まるで自分のことのように思って、共に心を痛めてくれる。



「…そんなあんただから、俺は一緒に武士になりたいと思うんだぜ」

「…トシ…」


「なぁ、勝ちゃん。俺じゃ、駄目なんだよ。俺はさ、やっぱりあいつには幸せになって欲しいと、思っちまうんだ」

「…?そりゃあ、惚れた女子の幸せを願うのは当たり前だろう…?」

首をかしげた勝ちゃんに、ひとつ笑みを零して、ゆるく首を振った。


「いや…『幸せにしたい』んじゃなくて、『幸せになって欲しい』って、思うんだ。……だから、これでいいんだよ」




『幸せにする』のは、来世の約束だ。


だから、これでいい。



ゆきには今も来世も、幸せでいて欲しいから。


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