愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第8章 在邇求遠
自分が耳にした声に、真っ直ぐ立っていられないほどの衝撃を受けたおれは、よろけて転びそうになった身体を壁に凭れ掛けさせた。
耳に飛び込んできた智の声‥
幾日も前にほんの少し話しただけだけど、耳から離れることがなかった可愛らしい彼の声。
まさにその声‥だった。
兄の名を呼びながら言葉にならない声を洩らしているのは、間違いなく智だ‥。
「なんなの‥何、してるの‥、」
おれが凭れている壁一枚隔てた向こう側で、智と兄さんは一体‥
混乱するおれに追い打ちをかけるように、聞こえてくる智の声は甘くて艶があって‥とてもじゃないけど折檻されてる訳じゃないっていうのは、おれにだって分かった。
『‥潤、さま‥、もっと‥』
何かを強請るような言葉
まさか‥兄さんが智を抱いてる‥?
『あっ‥ん、やぁ‥っ‥』
途切れがちに洩れ聞こえてくる性に‥快楽に染まった甘い声に、冷たい痛みを覚えた心臓は早鐘のように打ち始める。
「さと‥し、‥と兄さんが‥」
この壁の向こう側で‥
すごい勢いで脈打つ心臓が送り出した血が、おれの身体の一点に集まり、そこに甘い疼きを生んだ。
『‥そこをっ‥ああっ‥‥』
可愛らしく微笑んでいた智が‥こんな声を‥
冷たい壁で冷えていく身体とは裏腹に、下腹部の欲望の象徴だけはどんどん熱を帯びていって‥おれは姿の見えない智の快楽に染まる様に、はっきりと性的な興奮を覚えてしまった。
痛いほどの疼き‥
だめだ‥いやだ‥‥
おれは寝間着の上からでもはっきりと分かるほどに形を変えてしまったそこを押さえつけようとするけど、余裕を失くしていく智の声に煽られるように、益々膨らみが増してきて‥
「さとし‥智‥‥」
気がつけばおれは目を閉じて、快楽の中で恍惚としている智の表情を思い浮かべていて‥押さえつけていたはずの欲望の象徴に手を伸ばしていた。
こんなこと‥だめだ‥
あれほど会いたいと思っていた智が、よりによって兄さんに抱かれているっていうのに、その姿を思い描くことを止められない。
『潤様っ、‥もう‥っ‥』
快楽の頂へと昇りつめていくような智の声に、一気に自分の手の中の塊も大きくなって‥
「だめだ‥智、いやだ‥っ、」
溢れる言葉とは裏腹に、手の中に精を吐していた。