愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第8章 在邇求遠
「くくっ、素直なのも結構だが子供の遊びに付き合う気は無い。」
片手で胸を押さえ浅く息を吐いていた智は、手にしていた硝子を置くと
「そう、でしたね‥じゅん‥さま、」
その手を俺の肩に乗せて、妖艶な眼差しで見上げた。
ほんのり上気した頬に浮かべた微笑みは、これまでのどれとも違う。
「お前にどこまでの覚悟があるか、見せてもらおうか。俺を‥堕としてみろ。」
最高の余興じゃないか‥。
何かを企み潜り込んできた男。
俺が気づいていないとでも思ったのか?
大人しく飼われていれば可愛げもあったろうに、鎖が解かれたのをいいことに、部屋の中を嗅ぎまわるとは大した度胸だ。
何が目的で俺に近づいた‥?
何を奪おうとしている‥?
そしてその目的の為に、どこまで堕ちることができるのか。
微笑みを浮かべた智は肩に乗せた手を滑らせるようにして、俺の頭を抱くような格好で腿に跨がると、一転見下ろして
「潤様‥っ、ぼくは貴方のものだ‥っ、ああっ‥貴方が、欲しいっ‥」
熱に侵される潤んだ瞳で見据えたかと思うと、淫らな吐息を洩らし身を捩った。
まるでこみ上げる淫欲に侵されまいと抗うかのような仕草は、逆に淫靡にさえ見える。
纏う空気は色づき、仰け反った胸元が肌蹴け、白い肌が視界を奪う。
細い腰に二重に絡んだ腰紐の結いを引くと、はらりと開いた合わせの下で情慾に震えていた身体が惜しげもなく曝された。
「慾に身体を濡らしているだけでは、俺は堕とせないぞ。」
どうする‥俺を道連れにできるのか?
「はぁっ‥っ、ん‥じゅん、さまもっ‥」
視線を戻した智は俺の頭を抱くようにしていた手で頬を撫でると、淫らな吐息を洩らす唇をゆっくりと近づけて
「一緒に‥堕ちましょう‥‥」
そう囁き‥俺のそれを犯すかのように舌を差し込んだ。
同じ薬草の香りのする舌が性急に情慾を高まらせようと、ねっとりと絡みついてくる。
細い指先は官能を誘うように髪を弄り‥襟元から忍びこむ。
その手はやがて侵入を拒む腰紐を解くと、より大胆に俺の肌に快感を与えようとした。
慾に濡れた智のものが、露わになった腹にぬるりと擦り付けられる。
まだまだだな‥
だが慾に‥魔の力に翻弄されはじめた身体は、少しずつ俺を侵そうとしていた。