愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第8章 在邇求遠
俺が寝台の横に置いてあった洋酒の瓶へと視線を流すと、智も同じようにそこをちらりと見る。
「あれを覚えてるか‥?」
お前を乱れさせるだけなら、あの程度で十分だろう。
「忘れてやしませんとも‥潤様がお望みなら‥」
伏せた視線を上げた智は、傍らに置いてあった硝子にそれを注ぎ、片方を俺に寄越した。
慣れた洋酒の香りに混じる独特の匂いが鼻先を掠める。
少し甘さを感じる香りのする褐色の液体を硝子の中で揺らしながら長椅子の方へ歩いていく俺に従った男は、
「なんだか不思議な香りがするんですね‥」
革張りのそこに腰を降ろす。
「今日のお前には丁度いい酒だろう。夜は長い‥ゆっくり飲みながら愉しませてもらおうか。」
俺が時折口にする甘露な薬草の香りに誘われるようにそれを含むと、それを真似た智も硝子に唇をあてた。
一度口にして身体を乱したものを口にする智。
「こんなものなくても‥僕が潤様を温めて差し上げるのに。」
「まだまだ子供だな。そんな戯言で俺がその気になると思うのか。」
足を組み直し背凭れに寄り掛かかると、硝子の中身を味わいながらそれの持つ魔力まで飲みくだして見せれば、未知の魔力を知らない智までもが同じように魔を身体に染み込ませた。
灯りの消えた薄暗い部屋に雲間から降り注ぐ静かな月光が、時間(とき)を忘れさせた。
薬草の香りのするそれが染み込んだ身体は、緩やかに魔の持つ力を感じはじめる。
なかなかいいじゃないか‥。
「どうだ‥初めて味わう酒は‥」
「初めて‥?これは前に一度‥、っ‥」
智は微かに乱れはじめた息を抑えながら、少し怪訝そうな表情を浮かべる。
「違う‥似て非なるものだ。くく、お前の身体は気がついてるんじゃないのか?」
「‥っ、それはどういう‥意味‥っ‥」
「それは自分の身体に聞いてみるがいい。‥どうしたいのか。」
俺は硝子の中に残っていた褐色のそれを呷り、智にも視線で促す。
一瞬それを見つめたものの俺と同じように硝子の中身を呷ると、はぁっと大きく息を吐いて、空になった透明なそれを抱えるようにして胸を押さえた。
そして熱を持った息を乱れさせ
「‥っ、潤様に‥抱かれ、たい‥っ」
身体を狂わせはじめた魔の力に素直に従った。