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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第8章 在邇求遠


潤side


あの日以来‥幾日か経ったが、智は屋根裏部屋に戻ることはなく書棚の前の一人掛けの椅子の上に蹲っていたり、暖炉の傍でゆらゆらと揺蕩う炎を見つめていたり‥

心ここに在らずといった風情でいるくせに、俺が寝台に足を向けると、いつの間にか傍らに立ち官能を誘うような仕草を見せる。



「‥疲れてるんだ。一日中此処にいるお前とは違う。」

懐に忍び込む細い指先を感じ、背中に智が寄り添う。

「潤様は僕のことお嫌いですか‥。いつも貴方のことだけを考えて、此処でお待ちしているのに。」

後ろ髪に吹き掛かる息に妖しい色をのせ、否が応でも自分の方を振り向かせようとする。


「それがお前の望んだことだろう。俺に愛されて満足なんじゃないのか?」

「ええ‥とても。僕にとっては潤様に愛されることが生きていることの全て‥。だから貴方に抱かれたい。」

智は言葉巧みに俺を誘い、懐から肌へと辿り着いた指先は胸先を掠めた。

そうして少しずつ俺の情慾を煽りながら、自分の中にも熱を溜めていく淫乱な身体‥

「抱かれさえすれば‥満足だと?」

そう嘲ける言葉とは裏腹に、妖しく蠢めく指先が灯してゆく快感の焔は、少しずつ‥確実に俺の中に潜む嗜虐の愉しみを露わにする。


お前は俺が弄ぶだけの玩具に過ぎない‥。

それ以上でもそれ以下でも‥ない。


「だって潤様は僕を愛してくださってるんでしょう?だからこうして‥同じ床に入ることを拒まない。」

「随分と勝手な解釈だな。」

俺は胸元を騒がせている手を掴み、ゆっくりと振り返る。


薄闇の中、情慾の焔を妖しく揺らめかせる瞳で見つめ返す智は、唇の端を少し上げると

「潤様の身体も僕を欲しいって‥‥貫きたいって疼いてる‥。」

淫らな言葉をそこにのせた。

「やけに自信ありげじゃないか。その気の無い男を誑かそうとは‥。覚悟はできてるんだろうな。」

冷たく見下ろす俺の眼差しですら、自分への快楽の道具にしてしまいそうな男は、唇の隙間から赤い舌を覗かせながら、もう片方の手で掴んでいる俺の手を解く。


「堕ちましょう‥僕と‥。」

智は自由になった手でするりと俺の頬を撫でる。


馬鹿な‥堕ちるのはお前だけだ。


「ほう‥堕とせるのか。」


さあ‥見せてもらおうじゃないか。

お前ひとりが淫楽の底へと堕ちていく様を‥





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