愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第8章 在邇求遠
智side
もしかしたらこの部屋から抜け出せるかもしれない。
そんな甘い期待を胸に引いた引き出しには、当然のように鍵がかけられていて、それは幾つかある引き出しも同じだった。
きっと何かある筈‥
それでも僕は諦めることが出来なくて、箪笥の引き出しを探ったり‥、目に付いた場所は全て探って回った。
翌々考えてみれば、あの男のことだ‥
僕を自由にするために、用意周到に準備をしてきたに違いない。
落胆した僕は、部屋の入り口扉を背に、ぺたりとその場に膝を抱えて蹲った。
この扉を開ける鍵さえあれば、僕はここから逃げ出すことが出来るのに‥
そうしたら和也に‥翔くんにだって会えるかもしれない‥
ねぇ、僕は一体どうしたらいいの‥?
抱えた膝に顔を埋めると、零れ落ちた涙が何も覆う物のない足を伝って、床に染みを作った。
泣いちゃ駄目‥
僕はそんなに弱くない‥
自分に言い聞かせる。
それでも溢れる涙は止まることなく流れ続けた。
その時、
「智、さとし‥大丈夫なのっ」
どこからともなく気覚えのある声が聞こえて、僕は泣き腫らした顔を上げると、辺りをくるりと見渡した。
その声が、丁度僕が背中を預けた扉の向こうから聞こえたような気がして‥
翔くん、僕はここにいるよ‥
僕の存在に気付いて欲しくて、僕は扉に頬と手のひらをぴたりと貼り付けた。
でも、どれだけ耳を澄ませてみても、それきり声は聞こえて来ることはなく‥
翔くん‥、僕はここにいるのに‥
僕は半ば諦めにも似た気持ちでその場から腰を上げると、だらしなく肩から滑り落ちそうな襦袢を引き摺りながら、寝台へと潜り込んだ。
「寒いよ‥」
昨夜はあんなに温かだったのに‥
今は‥
人の温もりのない布団の中は、冷たくて仕方ないよ‥
誰か‥、僕を温めて‥‥