愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第8章 在邇求遠
でも和也と雅紀さんが恋人って‥男同士だよ?
そんなことってある‥?
おれは理解の範疇を超える事態に、どうしていいのか分からなくて。
「昨日ね、和也は雅紀さんを訪ねた後、何処へ行ってたの‥?親御さんのところ?」
核心に触れる意気地のないおれは、彼が何処で夜を明かしたのか遠回しに聞いてみる。
すると不思議そうな表情(かお)をしていた和也が、ほんのりと頬を染めて視線を伏せてしまう。
それはつまり‥そういうことなの‥?
おれには恥じらいを隠すような彼の仕草は、恋をしている乙女のように見えてしまった。
「あの、別に言いたくなかったら、いいんだよ?む、無理には聞かないからね、全部話す必要も無いし‥。」
見てるこっちが気恥ずかしさを覚えるような和也の雰囲気に、おれまでしどろもどろになっていると、彼は
「その‥相葉様のお屋敷に‥そのまま‥」
言いにくそうに小さな声で、そう返事をする。
うわぁ‥どうしよう‥
おれは洋紙に書いてある『愛しい人』っていう言葉の意味が分かってしまって、本当に恥ずかしくなってしまった。
和也は雅紀さんと夜を一緒に過ごすような間柄‥。
自分とそんなに歳の違わない彼が‥
「それはその‥友人としてではないんだよね‥?」
ついに核心に触れてしまうようなおれの言葉に、はっとしたように顔を上げた和也は、色白な肌を耳まで真っ赤にしている。
そしておれの真意を見極めるように見つめた後、僅かに首を縦に振った。
「‥そっかぁ‥おれ、全然気がつかなかったよ‥。」
驚きのあまり‥というか、あまりにも衝撃的過ぎて、着替えの手もすっかり止まったまま、どさりと長椅子に座り込んでしまった。
「あの、どうかこの事は翔坊っちゃまの胸にだけ収めておいて下さい。‥お願いします。」
机に両手をついて額が付くほど頭を下げる和也。
そのいじらしい程の懸命さを見ると、いい加減な気持ちじゃないことは明白だった。
「大丈夫、誰にも言わないから‥、心配しなくていいよ。」
そんなこと‥父様や兄さんに知れたら、それこそ大変なことになる。
下手をすれば和也は、この屋敷を追われてしまうかもしれない。
「よかった‥ありがとうございます。」
心底安心したように言った彼が顔を上げ‥そしてその目は、とても幸せに満ち溢れていた。