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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第8章 在邇求遠


翔side


手触りも滑らかな洋紙にしたためられた文字を目で追っていく。

そこには流れるような筆跡で近況が綴られていて‥おれも勉学に励むようにという言葉もあった。



けれど‥結びの前にあった一文‥


『和也が君の傍に仕えていると聞いて、幾分か心が穏やかになりました。
過保護過ぎると笑われてしまうのだが、愛しい人がどうしているのかと気掛かりでならないのだよ。
どうか和也のことをよろしく頼みます。』


おれは『愛しい人』と書いてあるところを、もう一度読み返す。


ん‥?どういう意味‥?


弟みたいに思ってて可愛いというには、『愛しい人』っていうのは表現として行き過ぎな気がする。


そのままの意味だと、その‥何というか‥恋人?

だとしたら和也が大事そうに借りた本を抱えていたり、涙を零してた理由(わけ)も何となく分かる気がするんだけど‥おれの勘違いかな?


慣れた手つきでお茶を淹れている和也を、じーっと見つめてしまう。


聞いてみる‥?


だって『よろしく頼みます』って書いてあるし、事情が分からないと何をどうすればいいのかも分からない。


おれは和也が湯呑を茶托に乗せたところで、

「ね、和也を宜しく頼むって‥どういうこと?」

思い切ってそう尋ねる。

「えっ、何ですって?あの、聞き逃してしまったんですが‥。」

そう言って、弾かれたように顔を上げた和也の襟元の合わせの隙間から見えてしまった赤い痕に目を奪われる。


それって‥


何だか見てはいけないものを見てしまったような気恥ずかしさに、顔が熱くなっていく。

「あの、ね‥雅紀さんが和也のこと、よろしく頼みますって‥。」

何とかそこまで言葉にはしたものの、その先を聞く勇気がでない。


すると彼は柔らかい表情(かお)になって

「それは‥私が翔坊っちゃまのお世話をさせて頂いてるってお話ししたからじゃないでしょうか?」

と小首を傾げた。


その仕草や表情が何だか昨日までと違って見えるのは、おれの気のせいかな‥。

それにちらりと見えてしまった、あの痕‥


「そっか‥‥」

おれが腑抜けたような声で返事をすると、和也は不思議そうな表情(かお)で見つめ返してくる。



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