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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第8章 在邇求遠



急いで部屋に入ったおれは鞄と外套を長椅子の上に放り出すと、壁際に走っていって思いっきり背伸びをすると、こんこんと2回、漆喰の壁を叩く。


するといつもなら鎖の音がしたり、何かしらの物音がするのに、何の応答もなくて‥

もう一度、ゆっくりと白い壁を叩いてみたけど、やっぱり物音はしなかった。


どうしたんだろう‥

具合でも悪いのか、まさか寝込んでるなんてことないよね‥。


全く応答の気配すら感じない天井の一角を見上げて、そんなよくないことばかりが頭を過ぎった。


‥どうしよう‥今から忍び込んでみる?

でもすぐ、和也が来てしまう‥。


おれは気持ちばかりが焦りだして、2人の間に立ちはだかる壁に掌を当てると、また固いそこを叩いた。

すると今度は壁伝いに智の返事が聞こえて‥

「智⁈大丈夫‥?」

思わずおれは、彼には聞こえない問いかけをしてしまう。

聞こえないのに‥聞かずにはいられない。

そして再び壁を叩くと、またすぐに返事があったけど‥何だか違和感を感じる音だった。


何だ‥この感じ‥。

いつもと違う‥‥。

はっきりとは分からないけど、何か引っかかる‥


おれはその正体が分かりそうで分からなくて、目の前の白い壁をじっと見つめる。

もう一度聞けば分かるかもしれない。

そう思って壁を叩こうとすると、後ろの木扉から和也の来訪を知らせる音がして、仕方なくそれを諦めたおれは壁際を離れた。



そして長椅子まで戻ると

「入っていいよ。」

そう声を掛けながら鞄を勉強机の足元に置いて、詰襟の釦を外し始めた。

部屋に入ってきた和也は取り繕うものが減ったのか、さっきよりも柔らかい表情(かお)をしていて、両手に盆を持つ小脇には新しく借りてきてくれた本を抱えている。

「いい休みになったみたいだね。」

「はい、お陰さまでゆっくりさせていただきました。」

にっこりとした彼は、膝を折って長椅子の前の机の上に盆を置くと、小脇に抱えていた本の間から白い封筒を取り出してそこに置いた。

「ありがとう。雅紀さん、お変わりなかった?本当はおれも会いたかったのになぁ。」

おれは優しい兄のようなその人を思い浮かべながら、それを手に取ると洋紙の書面を目で追って‥

「ね、和也を宜しく頼むって‥どういうこと?」

そこに書かれていた言葉に驚いてしまった。
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