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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第8章 在邇求遠



翔side


敷地の門が開く音が聞こえ、小窓から屋敷の二階‥ちょうど兄さんの部屋の上あたりを見つめる。

おれと兄さんの部屋は隣合わせだから、智のいる場所は目と鼻の先なんだ‥。


すごく近いのに途轍もなく遠い、おれと智の距離。

ちゃんと話したのは一度きりだっていうのに、智のことが忘れられない。

寧ろ、会えないから、余計に頭から離れないのかもしれない。


最初の夜に見た艶めいた眼差し、儚げな涙‥

キャンディの甘さに綻んだ頬‥

そのどれもが、おれの心を捉えて離さない。


けれどもどんなに会いたいって思っても、兄さんが確実に屋敷に居ないってわかってる時しか忍び込めないから、それもできないしな‥。



「翔様、いかがされましたか?」

物思いに耽っていたおれは、馬車が止まっていることも、扉が開かれていたことにも気づいていなかった。

「ごめん、ぼーっとしてたみたい。」

おれが傍の鞄を手に踏み台を降りると、その先では和也が笑顔で出迎えてくれていた。

「お帰りなさいませ、坊っちゃま。昨夜はお暇をいただいて、ありがとうございました。」

優しい表情(かお)をした彼は小さくお辞儀をすると、おれの手から鞄を受け取り玄関の扉を開けた。

「少しゆっくりできた?雅紀さんはお元気だった?」

彼の笑顔を見ると、きっといいことがあったに違いないって思えて、矢継ぎ早に問いを重ねてしまう。

すると少し苦笑いを浮かべた和也は

「坊っちゃま、そんなに慌てなくても‥手紙の返事も預かってますし、お部屋にお持ちした時にゆっくり話しますね。」

おれの脱いだ外套を受け取りながら、そう言った。

「そう?じゃあ部屋で待ってるから、持ってきてくれる?」

和也の雰囲気の変わりようが気になって仕方ないおれは、早く彼の話が聞きたくて、その手から鞄と外套を取ると、呆気に取られる使用人たちを尻目に、二階への階段を足早に上がった。



本当のことを言えば、和也の話も気になるけど、彼が部屋に来る前に智の無事を確かめたかった。

ただ壁を叩くことしか出来ないけど、それでもおれは智と繋がっていたいって思った。

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