愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
「あ、あの、寝巻は‥」
下帯すら着けていない身体がなんとも頼りなくて、俺はすぐ横にある雅紀さんの顔を覗き込んだ。
「今夜はこのまま‥お互いの体温を直に感じながら眠りたいのだが‥」
俺の腰に回した手が引き寄せられ、雅紀さんの身体と俺の身体が一寸の隙間なく重なる。
「こうして眠るのは、嫌かい‥?」
嫌なもんか‥
こんなにも温かなのに‥
俺は雅紀さんの背中に腕を回し、しがみ付くように抱き付いた。
「一つだけ私の頼みを聞いてくれるかい?」
胸に顔を埋めたまま、小首を傾げて雅紀さんを見上げる。
「‥はい。俺に出来る事なら‥」
「お休みの口付けをしてくれないか?」
月明りだけでも分かる程綺麗な瞳が俺を見下ろし、そっと瞼が閉じられる。
なんて綺麗なんだろう‥
雅紀さんは俺を可愛いと言ったけど、雅紀さんだって‥
俺は首を少しだけ伸ばすと、形の良い雅紀さんの唇に自分のそれを重ねた。
「お休み‥なさい‥」
「ああ、今夜はよく眠れそうだ。和也もゆっくりお休み?」
再び胸に顔を埋めた俺の髪が優しく撫でられる。
不思議だ‥
これは何かの魔法だろうか‥
それとも‥‥
まるで全てを包み込んでしまうような温もりの中、途端に重たくなった瞼を閉じると、俺は何かに吸い込まれるように眠りに就いた。
その晩、俺は久しく見たことのなかった夢を見た。
夢の中で俺は、大きな桜の木を見上げていた。
その横には、愛しい人がいて‥
そこにはとても穏やかな時間がゆっくりと流れていて、降り注ぐ暖かな陽射しは俺達を照らしていた。
なんて幸せなんだろう‥
こんな幸せがいつまでも続くといいな‥
願いをこめて愛しい人を見上げる。
その時、一陣の風が吹き付けて、辺りが薄桃色に包まれた。
行かないで‥!
俺は必死で愛しい人の名を呼び、手を伸ばした。
すると不思議なことに風がぴたりと止み、俺の身体は優しい温もりに包まれた。
私はここだよ?
君が望むなら、私はいつだって君の傍に‥‥
大きな手と、俺の少し小さな手が自然に重なった。