愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
どうしたものか‥‥
今まで躊躇することなど無かった行為なのに、こんなにも臆病になってしまうとは‥
私はよほど和也のことが愛おしくて仕方ないとみえる。
温かな咥内を愛しむようにゆっくりと口づけ、小さな身体が緩やかになると、そっと唇を離す。
微かに乱れた息を吐きながら見つめる瞳に微笑みかけると、綺麗な薄茶色のそれを細めた和也。
「君は本当に不思議な子だね。私の大切な恋人‥」
「雅紀さん、俺が怖いって言ったから‥」
「いいんだよ‥私がそうしたいと思ったのだ。」
そう言って折っていた足を元に戻してやると、腕を枕にして愛しい者を胸に抱き寄せた。
「‥ごめんなさい‥」
素肌の胸にぽつりと和也の言葉が零れ落ちる。
小さな身体を縮こませ、肩口に頬を寄せるようにして抱かれている恋人は、私が忘れかけているようなことをまだ気にしている様子だった。
「君が謝ることではないんだよ?寧ろ無理を言った私のほうが申し訳ないと思っているくらいなのだから‥。」
私は少しだけ顔を見せてくれた和也の髪を梳きながら、穏やかな気持ちでそう語りかける。
「でも‥その、こ、恋人ならすることなんじゃ‥」
やはり恥ずかしさを思い出したのか、彼は少し口籠もりながら不安を口にする。
「ふふ、そうだね。和也の言う通りかもしれない。今までもそうしてきた。けどね、君は違うのだよ。」
「‥違うって‥どうして?」
「それが私にも不思議で仕方ないのだ。最初は愛しい君と繋がりたいと思っていたのに、君を怖がらせたくないという気持ちの方が強くなってしまってね。自分でも驚いたよ。」
自分の言葉を不思議そうな表情(かお)で聞いている恋人の額に柔らかく口づける。
「それだけ和也のことが愛おしくて堪らないのだよ。」
「じゃあ、俺‥嫌われた訳じゃないんですね‥?」
少し安堵したような声で言うと、縮こませていた身体から力が抜けていく。
「そんなこと、あるはずが無いだろう。こうして君を抱いているだけでも満たされているというのに‥。」
本当に人の心とは分からないものだな。
こんなにも穏やかな気持ちで愛しい者を胸に抱く日が来るとは、私だって想像していなかったのだから‥。