愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
微かに震える唇。
そして高鳴る鼓動が抑えきれない私までもが同じように‥。
二宮君‥いや、和也と呼んだ彼の初々しさに触れ、初恋のようなときめきを覚えてしまった。
触れるだけの口づけなのに、こんなにも動揺してしまう自分に驚きつつ唇を離すと、純真な彼は堪らないほど潤んだ瞳で私を見つめ返していた。
「初めて‥だったのかい?」
抱きしめて胸の中に閉じ込めてしまいたくなるほどの愛おしさを感じてしまった私が、紅潮した頬を手のひらで包み、彼にそう尋ねると小さく頷く。
何と愛らしいことだろう‥。
「私はずっと君への気持ちがわからなかった。愛する者を失って自分を見失いそうになっていた時に傍に居てくれた君への想いを、何と呼べばいいのかわからなかったんだ。」
そうだ‥ずっと戸惑っていた。
「智といた頃には感じたことのない胸の温かさを教えてくれたのが君だったから‥それは私にとっても初めてのことだったから‥。」
私は肩を抱いている存在に、自分の心を紐解いていくように言葉を紡ぐ。
彼は一瞬、瞳を揺らしたけれど、私の想いを確かめるように静かにそれを聞いている。
「いつの間にか和也は、私の胸の中に無くてはならない存在になっていたのだよ。」
「お、俺も‥旦那様のお傍にいたいと、ずっと思ってました‥。だけど俺なんかがって、」
「和也、自分のことをそんな風に言ってはいけないよ。君は私にとっては宝物のように愛おしい者なのだ。そこに身分などいらない‥心に身分などいらないのだよ。」
少しずつ解きほぐれていく彼の心に、自分の想いの糸を繋ぐように語りかける。
心で繋がりたい‥そう思った。
すると見上げていた薄茶の瞳が大きく揺れて、それを隠すかのように私の胸に飛び込んできた。
「ありがとうございます‥旦那様‥。」
私はそれを受け留めながら、またひとつ繋がった想いを感じて‥
「私は我が儘かもしれない。君を困らせてしまうかもしれない。愛おしさ故だと思って許して、傍にいてくれるかい?」
胸の中に顔をうずめる彼の小さな背中を撫でながら、最後の許しを得るかのようにそう尋ねる。
すると彼は私の懐の中で、はい‥と濡れた声で返事をくれた。