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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第7章 掌中之珠


「もし君が嫌だと言うのなら、別の部屋に床を用意させるが‥」


いつまで経っても返事のない俺に焦れたのか、俺の背中に回した手を少し緩めた。

そして俺を胸から引き剥がすと、両の眉を下げて寂しげに笑った。


「済まなかったね。私はどうも君に無理難題ばかりを押し付けてしまう癖があるようだ。だからあの子も‥」


雅紀さんの顔に、暗い影が落ちる。


いけない、これではまた雅紀さんがあの海の底のように、暗い闇の中へと堕ちて行ってしまう。


そんなの‥嫌だ!

「ち、違うんです!そうじゃなくて‥、嬉しくて‥」


俺は咄嗟に雅紀さんの服を両手で掴むと、再びその広い胸に頬を寄せた。


「お慕いしておりました‥。ずっと前から‥旦那様ののことを、ずっと‥」


言ってしまった‥

とうとう俺は、胸の内を雅紀さんに打ち明けてしまった。


「それは‥本当かい?本当ならば、こんなに嬉しいことはないのだが‥」


一度は解かれた腕が、俺の背中にまた回される。


「顔を‥見せてくれないかい?」


言われて、俺は真っ赤になっているだろう顔をゆっくりと上げた。


どうしよう‥
顔、見られないや‥

それに‥胸、苦しい‥


「どうか目を逸らさず、私を‥。そして呼んでくれないかい、君が心の中で呼んでいる名で私を‥」

「ま、雅紀‥さん‥‥」

「もう一度‥」

雅紀さんの手が俺の髪を撫でる。

それがとても心地良くて‥‥


「雅紀さん‥私‥いや、俺をあなたのお傍に‥‥」


身の程知らずだと罵られたっていい‥

例え明日の朝には消えてしまう夢だとしても、今だけは‥


あなたの傍にいたい。


「二宮君‥いや、和也‥、こちらへ‥」


背中に添えられた手が、俺を寝台へと誘う。

そして隣り合わせてその端に腰を下ろすと、そっと重ねられる唇。


触れた部分から、雅紀さんが震えているのが分かる。


俺の震えも、ひょっとして雅紀さんに伝わっているんだろうか‥
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