愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
和也side
もっと近付きたい‥
そう思っていても、俺と雅紀さんの間には、超えたくても超えられない、身分の差と言う高い壁が立ちはだかっている。
雅紀さんは俺に、その高い壁を飛び越えろと言う。
俺だって‥
出来ることなら飛び越えてしまいたい。
一足飛びに駆け上がって、雅紀さんの胸に飛び込んでしまいたい。
でもそれが出来ないのは、やっぱり俺に引け目があるから‥
貴族と使用人‥
どう考えたって釣り合う筈がない。
それでも‥
それでも俺は、少しでもこの人の傍にいたい。
この心優しい人の愛が欲しいと‥
雅紀さんに愛されたいと願うのは、俺の我が儘なのだろうか‥
「あの‥実は今日、外泊のお許しを頂いていて‥」
許されない事だとは分かっている。
でも‥でも‥‥
「ですが、私には行く宛もなくて‥。だから、あの‥もしお邪魔でなければ、旦那様のお宅にご厄介になっても宜しいでしょうか‥?」
俺を見下ろす雅紀さんの目が、徐々に大きく見開かれて行く。
やっぱり迷惑だったのだろうか‥
「あ、あの‥、土間でも廊下の隅でも構わないんです。横になれる場所さえあれば‥何処でも‥」
少しでもあなたの傍にいられるのなら、何処だって‥
「迷惑でしたら、本だけお借りして、今日はこのまま‥」
「何を言っているんだい、君は‥」
えっ‥?
「私が君をこのまま帰せると思うかい?それに君は私の大事な‥」
そこまで言って、雅紀さんが不意に俺から視線を逸らした。
その顔が、どことなく赤く染まっているのは、俺の思い違いだろうか‥。
「旦那‥様‥‥?」
「構わない、だろうか‥。その‥私と床を共にするのは、構わないだろうか‥」
「それは‥どう言う‥‥、あっ‥」
突然強く抱き締められ、俺は漸くその言葉の意味を悟った。
その瞬間、全身の血液が顔目掛けて駆け出したような気がして、俺はそれを隠すように雅紀さんの胸に深く顔を埋めた。