愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
いつまで経っても打ち解けてくれないばかりか、立場の違いばかりを気にして、私を一人の人として見てくれない君がもどかしい‥。
「いくらそう仰られても‥作法も知らない私みたいな者と外で食事となると、旦那様に恥をかかせてしまいます‥。」
「二宮君‥」
「ですから‥‥あっ‥」
私は腰を抱いていた片腕で、潤んでしまった瞳ごと自分の方に強く引き寄せれば、小さな身体はいとも簡単に腕の中に収まってしまう。
「私がこうして誘うのは迷惑だろうか‥。」
「いえ、そんなことは‥ただ、‥」
「ただ‥?他に拒む理由があるのなら教えてくれないか。」
君に嫌われたくはない‥
「私はただの使用人に過ぎません‥本当ならこうして旦那様の傍にいるなど、許されないことです‥。」
幾度も私たちの間で繰り返されるやり取り。
だが‥今日はそれだけでは無かった。
言葉の途中からその声は涙に濡れて、引き寄せられただけの筈の身体が、自分の胸に押し当てられたのを感じた。
「何故、泣く‥私は君の主人ではない、何度もそう言っているのに。なのに何故、私を一人の人とて見てくれないのだ‥」
泣かせてしまうつもりなどなかったのに‥
きっとさっきまで恥ずかしそうな微笑みを乗せていた頬は、涙で濡れているに違いない。
私はもう片方の手で柔らかな髪を撫でながら、
「私はこんなにも君のことを知りたいと思っているのに。」
何とか頑なな心を解そうと言葉を尽くす。
けれども私の外套に顔を押し当てて、小さく身体を震わせだした二宮君は返事を返してはくれない。
そう思うことはいけなかったのだろうか‥。
愛らしい君の笑顔をもっと見ていたいと思うことは、君にとって重荷なのだろうか‥。
「顔を、上げてみせてくれないか。」
抱いていた腕を緩めると、髪を撫でていた手で涙に濡れた頬を包む。
「旦那‥様、」
すっかり涙で濡れてしまった声で、彼はそう呟く。
「私は君を困らせてばかりだ‥そればかりか、こんなにも涙を流させてしまった。‥すまなかった。どうか泣き止んではくれまいか?」
私は白い頬を濡らす涙を拭いながら、もう我が儘は言うまいと思った時だった。
濡れた睫毛を上げた二宮君の唇から溢れ落ちた言葉に、私の胸は高鳴りを覚えてしまった。