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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第7章 掌中之珠



そこに書かれていたのは、時節の挨拶に本を貸して欲しいという頼みと、和也をよろしく頼むというものだった。


「君は翔君の世話を?」

洋紙から視線を上げると、薄茶の瞳が不安げに私を見つめている。

「はい‥少し前から。」

「そうか。だから本を貸して欲しいということなんだね。なら付いて来なさい。」

繋いていた手を引き、部屋へ向かおうとすると

「で、でも‥旦那様はお出掛けになられるところではなかったのですか‥?。」

小柄な身体を固くして足を止める。

「急ぐことではない‥それに君がこうして訪ねてきてくれたのだ。私にとっては、そのことの方が余程大事なのだよ。」

私への気遣いばかりを口にする片頬を包むと、ゆらりと揺れた瞳に自分を映した。

「さあ、おいで。」

私はほっと緩んだ身体を抱くと、自室への階段を上がった。



履きなれない靴で歩きにくそうに階段を上がる姿が、幼子のように愛らしい。

階段を上がりきったところで安堵の息をつく彼の表情(かお)に、思わず微笑み(えみ)が溢れてしまう。

「旦那様‥やっぱり変でしょうか‥。」

私が声を洩らしてしまったのを気にした彼は、恥ずかしそうに視線を伏せる。

「いや、本当に可愛らしいと思ったのだ。君の白い肌色にはよく似合っているよ。」

「そうでしょうか‥慣れないもので気恥ずかしいばかりで‥」

そう言ってまた頬を染める二宮君を愛らしい‥そう思った。

恥じらいに染まった頬に触れたいとも‥

私は片腕に抱いた存在を、もっと‥

全く‥私はどうしたというのだろう。



そのまま部屋の扉を開けて、その中へ彼を招き入れる。

「どんな二宮君でも私には可愛らしく見えるが、今日の洋装は君の愛らしさを際立たせているようだね。どうだろうか、家の者が留守にしているから外で食事をしようかと思っていたのだか、それでも構わないかい?」

こんなにも心を擽られる君と過ごす時間は、どんなにか楽しいものになるだろう。


だけど食事に行きたいのだと言った私の言葉で、途端に困惑してしまった彼は首を横に振る。

「翔君からも君を頼むと言われたのだ。叱られはすまい。私がついているのだから、心配することはないよ。」


きっと、私はもどかしいのだ‥。

ようやく手を取ってくれたかと思えば、我に返ったように身を翻してしまう君が‥。
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