愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
雅紀side
「雅紀様、お気をつけて。」
「ああ、そんなに遅くはならないが‥留守を頼むよ。」
後ろで深々と頭を下げる使用人に声を掛けて、扉を開いた時だった。
それに引かれるように小さな人影が身を踊らせ、転びそうになった身体を咄嗟に支える。
突然の来訪者に驚き、腕に支えた人が会いたいと思っていた相手だったことに、驚きが重なった。
「大丈夫‥かい?怪我は‥‥」
私を見上げたまま動きを止めた二宮君も、驚きを隠せない表情(かお)をしている。
久しく見なかったその頬は薄紅色に染まり、愛くるしさを増して見せた。
「それより今日はどうしたんだい?」
私の問いに慌てた彼は咄嗟の返事に困り、胸に抱いていた風呂敷包みを見せた。
聞けば翔君の遣いで来たのだという。
それにしても‥今日の二宮君はどうしたというのだろう。
いつも袴に草履履きだというのに、洋装に革靴まで履いて‥
普段でも愛らしく見えるのいうのに、初めて見る洋装はそれを際立たせていた。
ほんのりと頬を染めて微笑む表情(かお)に、さわりと胸が擽られる。
このまま、帰したくはない‥
そう思って共に時間(とき)を過ごせないものかと誘うのに、彼は首を縦に振ってくれず‥
こちらに背を向けてしまった小さな背中に
「私が君と一緒に出掛けたいのだが‥。その‥今日の君はとても‥何と言うか‥‥。可愛らしくてね」
思わず口を突いて出た言葉に、自分でも驚いてしまった。
どうしても‥とそう思ってしまった。
取り繕うこともなく咄嗟に出た言葉とはいえ、あまりにも子供じみた我が儘を言ってしまったことに、頬が熱くなるのを感じる。
すると一度背を向けてしまった小柄な身体が、驚きの声と共にゆっくりと振り返って‥はにかむような微笑み(えみ)を言葉に乗せて、差し出した私の手をそっと捕まえてくれた。
よかった‥
安堵の息を洩らす私を見て、二宮君はくすりと笑って、
「あの、翔坊ちゃんから手紙も言付かってきたんです。」
と本の下に挟んであった封筒を取り出した。
「翔君から‥?」
長く顔を見ていない懐かしい少年の顔を思い出す。
「急ぐ用件だといけないね。ここで失礼するよ?」
私は受け取った封筒の中身を取り、少しばかり大人びた文字に視線を走らせた。