愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
「大丈夫‥かい?怪我は‥‥」
顔を覗き込まれて、漸く俺は我に返る。
「あ、あの‥、すいません!」
唇が触れてしまいそうな距離に雅紀さんの顔があって、俺の心臓が壊れそうなくらいに激しく脈を打ち始めた。
「いや、謝ることはないよ。それより今日はどうしたんだい?」
「えっと‥あの‥‥」
動揺のせいか、上手く言葉が出て来なくて、俺は手に持っていた風呂敷包みを雅紀さんに向かって差し出した。
「これ‥は?まさかまたあの子の‥?」
雅紀さんの顔が一瞬にして曇る。
無理もない。
俺が潤坊ちゃんから言付かってきた包みのせいで、心優しい雅紀さんは酷く傷付いたのだから‥
「ち、違います。これは翔坊ちゃんからで‥」
俺は雅紀さんを安心しさせようと、自ら風呂敷の結び目を解き、中の物を広げて見せた。
「これは確か私が君に貸した本では?」
「あの、実は翔坊ちゃんに、雅紀さんに本をお借りしたことをうっかり喋ってしまって、それで‥」
「そうか、そうだったのか。済まなかったね、君を疑るような態度を取ってしまって」
雅紀さんがくすりと笑って、僕の手から包を取り上げる。
良かった‥、笑ってくれた。
「それで、今日はゆっくりしていけるのかい?実は、これからちょっとした用向きで出掛けるところでね。もし良けれは君も一緒にどうかな?」
俺‥も‥?
俺なんかが雅紀さんと一緒に‥?
そんなこと、許されるのだろうか‥
いや、やっぱり駄目だ。
「あ、あの‥、そういうことでしたら私はこれでお暇します」
俺は雅紀さんに頭を下げると、そのまま踵を返した。
でもその足を雅紀さんの声が引き止めた。
「私が君と一緒に出掛けたいのだが‥。その‥今日の君はとても‥何と言うか‥‥。可愛らしくてね」
「えっ‥」
「私が君を連れて歩きたいんだよ。駄目かい?」
その言葉にゆっくりと雅紀さんを振り返ると、雅紀さんの顔はまるで茹で蛸のように真っ赤に染まっていて‥
「はい、私で良ければお供させて頂きます」
俺は、俺に向かって伸ばされた手を握った。