愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第7章 掌中之珠
和也side
本当のことを言ったら叱られるんじゃないか、って思っていた。
雅紀さんのような身分の高い方と、俺みたいな使用人が親しくしてるなんて、どう考えたって不自然だから。
でも翔坊ちゃんはどういう訳だかわざわざ手紙を認(したた)め、俺の手に握らせた。
そして俺の身形を見るなり、箪笥の引き出しから服を一式取り出すと、俺の肩に宛がった。
「和也、これを着て行くといいよ」
「い、いえ、俺なんかにそんな‥勿体ない‥‥」
「駄目だよ。他所のお宅にお邪魔するんだから、ちゃんとした身形をして行かないと‥。それにね、この服もう小さくて着れないんだ。だから和也に着てもらいたいんだけど、駄目かな?」
見れば、俺に肩に宛てがわれた服は、確かに翔坊ちゃんには袖も丈も小さくて‥
「そういうことでしたら‥。ありがとうございます」
俺は手紙と服一式を手に、深々と頭を下げた。
「あ、それから今日は戻って来なくてもいいからね?」
「えっ‥それは‥」
「いいからいいから。たまにはゆっくりしてくるといいよ。久々に会いたい友人だっているだろ?」
俺に“友”と呼べる人なんていないけれど‥
でもこれで雅紀さんと‥‥
そんなことを考えていると、頬が自然と緩んでしまいそうになって、俺は頬を一つ手で叩いてから、もう一度翔坊ちゃんに頭を下げた。
「ありがとうございます。行って参ります」
「うん。あ、でもくれぐれも粗相のないようにね?雅紀さんは兄さんの大切な友人だから」
「はい!」
俺は坊ちゃんから預かった手紙と服一色、そして雅紀さんから借りた本を胸に自室へと駆け戻ると、手早く外出の支度を済ませ、松本の屋敷を飛び出した。
出掛けに偶然庭先で出くわした澤さんに、簡単な事情を説明をした。
すると澤さんは俺の身形を見るなり、
「おやおや、馬子にも衣装とは正にこの事だねぇ」
と言って、その皺だらけの顔を綻ばせた。
「行って参ります!」
「ああ、行っておいで」
「はい!」
俺は澤さんに手を振ると、履き慣れない靴に足を縺れさせながら、それでも小走りで松本家の門を抜けた。