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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第7章 掌中之珠



「ね、和也。その本を貸してくれた方って、どんな方なの?」


おれはその内容もさる事ながら、どうして彼がそんなにも幸せを噛みしめるように頁を開いていくのか‥

舶来の珍しい本だから読むのが楽しみっていうのとも違うように見える微笑みの理由(わけ)を知りたくなった。


すると和也は、ぴくりと身体を震わせ、少し遠慮気味に聞いたおれの顔をおずおずと見る。


以前同じことを聞いたときは、泣かせちゃったしな‥


そう心配して見ていると、やはり頬からは幸せそうだった微笑み(えみ)が消え、困惑の色が浮かんで


「あの‥、やっぱり叱られるんでしょうか‥。」


心配する声までもが、塩をかけられた青菜みたいに、しゅんとしてしまう。


「いや、そうじゃなくて、あまりにも和也がにこにこしているから、どんな方が貸してくれたのかなぁって。」


おれが泣かせてしまわないように、言葉を選びながら尋ねると、少し視線を彷徨わせた後


「あ、相葉様に‥貸していただいて‥」


と言って、色白の頬をふんわりと薄紅色に染めた。


「相葉様って‥もしかして、雅紀さんのこと?お父上じゃないよね?」


和也の口から出た意外な名前に驚く。


「どこで知り合ったの?」


何の接点も無さそうな彼が、本を貸してもらう程親しい間柄であることに、俄然興味が湧いてしまう。

本そっちのけで矢継ぎ早に尋ねるおれの顔を見て、彼は少し困ったように笑うと


「雅紀様に貸していただいたんです。秋口にこちらに来られた時、途中で気分が優れないって休まれた折に、部屋に案内して差し上げたんです。それで、その‥」

「親しくなったってこと‥?」

「はい‥、あ、でも失礼の無いように、本はちゃんとお返ししますので‥」


と今度は少し寂しそうな表情を見せた。


「へぇ‥そうだったんだ。雅紀さんには小さい頃、よく遊んでもらってたんだ。すごく優しかったし、本も読んで聞かせてくれてたな‥」


しばらく会えてない懐かしい人の名前を聞いて、なんだか嬉しくなった。


「あ!そうだ。雅紀さんなら、この本の続きを貸してくれるかもしれない。おれ手紙を書くから、和也からもお願いして貰えないかな?」


おれは優しく読み聞かせをしてくれていた雅紀さんの顔を思い浮かべながらそう言った。



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