第13章 レイム
少年に名はなかった。
スラムのような所にいる人のほとんどは名無しである。
教育もまともに受けていないため、字を書くことすら出来ない者も少なくはない。
少年もまた、会話はできるものの、そういうことはからっきし駄目だった。
そんな彼にジョエルが付けた名はレイム。
不自由なとか不完全などという侮辱を表す単語であった。
少年は名前を喜んだ。
私は名前の意味を本人に教えた。
「そうなんだ…。でも、俺嬉しいんだ!」
一瞬俯いた少年は無理に笑顔を見せた気がした。
教えなかった方が良かったのだろうか…。
しかし、ここに来た限り、読み書きは叩き込まれるだろう。
後から知った方がよっぽど辛い。
今ここで知った方がまだましだったはずだ。
自分は余計なことをしたのだろうか?
そんな不安を自己肯定で和らいだ。
レイムはよく働いた。
読み書きはもちろん楽器や体術や剣術の稽古、屋敷の掃除にその他の家事をこなした。
そして、本命の仕事…。
私と仲良くすることも怠らなかった。
毎日私を気遣い、身の回りの世話も欠かさない。
いつものように実験に使われ、帰って来た私に着替えと温かい飲み物を用意してくれる。
彼は初めて血まみれの私を見た時も驚いてはいたが、恐ることはなかった。
むしろ心配をしてくれた。
怪我をしたのか?痛くはないか?…と。
嬉しかった。
しかし、反対に恐ろしくもあった。
無垢な心を傷つけてしまうことに怯えた。