第12章 仕事
「何で?何で…そんなことを言うの…?」
せっかく助けたのに…助かったのに。
「俺は生きている価値がないから。産まれてからすぐ、このスラムに捨てられて、ここで過ごしていた奴に助けられて生活してたけど…そいつはもう死んだし。みんな俺が生きていようと死んでいようとどうでもいいんだ。奪うことで生きている人間のゴミなんだよ」
少年は震えていた。
固く結んだ唇、悔しそうな表情、目に溜まった涙。
その全てで、私はこの子が寂しい思いをしていることがわかった。
自分と同じなんだとわかった。
「そんなことない!私はあなたに生きて欲しいから助けたの。このままではダメだと思うなら盗みを止めればいい。地を這ってでも生きればいい!あなたは鳥籠の中にはいない。自由なのよ!自分で囚われていると勘違いしてるだけ!」
少年は本当の鳥籠の中にいる私とは違う存在。
私は少年が羨ましいと感じていた。
目一杯羽を広げて飛び立てる少年が…。
そして、そんな少年に言った言葉は自分に言いたかった言葉なのかもしれない。
「…ありがとう。俺、盗みやめるよ。それからちゃんと生きる!」
少年の顔は先程とは違い、晴れやかなものとなっていた。
災悪をもたらす私でも人を変えられたことが嬉しかった。
私はその少年に精一杯の笑顔を返した。
「どうやらお前はこの少年を気に入ったようだね」
その後ろから聞こえた声に大きく肩が跳ね上がる。
恐る恐る振り返る。
声の持ち主は満面の笑みを浮かべたジョエルだった。
「君…うちで働かないか?」
…は?
「働くと言ってもこの子…ナリファイと仲良くしてくれればいい。食事も寝床もある。いい条件だろ?」
変だ。
ジョエルがこんなことを言うなんて…。
「えっ!?でも…俺、あんたの金盗んだ張本人だし…」
何かあるんだ…。
この少年をジョエルの側には置けない。
「金は返してくれたらいい。ナリファイ…お前もこの子が一緒にいてくれたら嬉しいだろ?」
ジョエルの黒い双眸。
少年の輝いた瞳。
ダメだとわかっているのに…私は頷くことしかできなかった。
弱い自分に嫌気がさし、握り拳の中で手のひらに爪を立てた。
ジョエルはそんな私を見て、妖しく笑った。