第11章 私
11歳になる頃、屋敷から少し離れた所にある塔の中の妹のことをジョエルに聞き、彼女のもとに足を運んだ。
塔からは綺麗な歌声が流れていた。
塔の階段を駆け上がると鍵のかかった部屋に繋がった。
「ごめんね」
私はそれしか言えなかった。
「あなた姉様でしょ?アンシェルに聞いたわ。初めまして」
不意に奥から声が届き、びくりと肩が震えた。
「私はナリファイ。あなたの姉よ」
「私は……」
「名前がないのね?」
彼女は私の問いに無言になる。
「そうなのね……」
名前を今すぐ付けてあげたい。
しかし、私には名は付けられない。
許されていないからである。
私は悔しくて唇を噛んだ。
「姉様…またきてくれる?」
部屋という牢屋の中で過ごす妹の声は震えていた。
「また来るわ」
「絶対?」
「ええ 、絶対」
「ありがとう、姉様」
震えていた声は少しだけ安堵を含むものになっていた。
ごめんなさい。
そう、心の中で何度も叫んだ。
妹に会った次の日、私はジョエルに連れられて敷地の外に出た。