第10章 日記
「そろそろ話してくれないか?この白紙の日記帳がなぜ必要なんだ?」
ジョエルの催促にため息を浅く吐いて口を開ける。
「ええ…。まず、その日記帳はもう1人のサヤとディーヴァの姉妹…つまり、私について書かれたものよ」
8人全員が一斉に驚きを見せる。
私を知っているハジでさえも私がサヤと血が繋がっていることを知らないのだ。
「何も書かれていないじゃないか!!」
「書かれているわ。文字が見えないだけ…。誰か火を持っている?」
デヴィッドから無言で差し出されたライターで火を起こし、日記帳をその火に近づけた。
「そうか、炙り出しか!!」
ルイスが興奮気味に叫んだ。
「正解よ」
じわじわと白紙だったはずの日記帳に文字が浮き上がる。
炙り出し…主に塩化コバルト溶液などで文字や絵を書いておき、火に炙ってあらわすものである。
機密文書にはうってつけの方法だ。
「あなたたちが知っているジョエルの日記は私のことを隠したもの。いわゆるフェイク」
字を浮かばせた日記を撫でながら覚悟を決めた。
正直、この日記を見るのは私自身も初めてである。
私のことをどう思い、ジョエルは私を育てたのか。
怖いが、興味はある。
つにい日記に全ての文字が浮かび上がる。
日記にはこう綴られていた。
1833年8月4日
みっつの繭からそれぞれ一体の新生児が産声をあげる。
三体とも女児であった。
このうちの一体を人間と同じ環境下で、もう一体を完全に外界と隔離した環境下に、そしてもう一体は世界の全てを知らせながら、それぞれ育成し生態を観察することにする。
人間の環境下と世界の全てを知らせながら育てる者には名を与えたが、隔離する者には名は与えなかった。