第9章 船上
私たちは海に浮かぶ客船の中に飛び込んでいた。
赤い盾と呼ばれる組織の本部が海の上にあるとは…流石の私も驚いた。
ディーヴァと別れてから一週間程で情報を得た。
しかし、ここまでたどり着くのには少々時間がかかった。
ここまで来た方法はいつもと同じであまり人様には言えるようなものではないのでふせておこう。
あえて言うならば、運が良かった。
で…侵入させてもらったはいいが、船内はやたら広い。
まあ、あれだけの人数を誇る組織だから仕方がない。
だが、探しにくいことこの上ない。
私の目的のサヤ1人を見つけるのは容易ではないだろうと歩き回った。
しばらくすると…。
「でもね、この中にはジョエルの名を継いだ者の意思が綴られている。1823年、ボルドーに動物園が造られた時からのジョエルの記憶がね」
そんな声が聞こえ来た。
そろりそろりと部屋を少し確認するように覗くと、青年が見えた。
青年は研磨された宝石を思わせる立派な木材を使用した椅子へと、その目の前にいる少女を座らせた。
少女は髪が以前よりも随分短くなっているが、間違いない。
サヤである。
ほどなくして、青年は机の上にあった一冊の本をめくり、話し始めた。
「ある時、その蒐集品の中に、ヴァイキングの財宝だったという曰く付きの古いミイラ死体が加わった。顔は潰れていたけど、妊娠した女性と思われる遺骸でSAYAと呼ばれていたそうだ」
すぐにその本はジョエルの日記だとわかった。
サヤは知っておかなければならない。
自分がどこから、どうやって生まれて来たのか。
自分はなんなのか…。
私はその話を黙って部屋の外から聞いていた。